女子 2022.08.02

仕掛ける女子日本代表。司令塔の大塚朱紗、疲れても「正確な判断」を下したい。

[ 向 風見也 ]
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仕掛ける女子日本代表。司令塔の大塚朱紗、疲れても「正確な判断」を下したい。
南アとの第2戦で10番をつけた大塚朱紗(撮影:松本かおり)


 トライには伏線があった。女子15人制ラグビー日本代表の大塚朱紗は、それをわかっていた。

 7月30日、熊谷ラグビー場。南アフリカ代表との2連戦2試合目へ、司令塔のSOとして先発した。

 インゴールを割ったのは前半5分だ。

 まずは敵陣ゴール前左のラインアウトから、FW陣が突進を重ねる。相手の強力なタックルを浴びながらも、低い姿勢を保って束となって進む。右へ、右へと針路を取る。

 南アフリカ代表はそちらに人員を割く分、日本代表から見て左側の防御が手薄になる。穴を簡潔に突いたのが、大塚だった。SHの阿部恵のパスへ駆け込み、フィニッシュ。

 ちょうどその瞬間、大塚よりも左にいたWTBの黒木理帆、右から左へ回り込んだCTBの山本実も、各自の立ち位置でパスを呼んでいた。タックラーの視線を大塚から遠ざけた。

 全ての動きが布石となっていた。得点者の大塚自身が覚えていた。

「FWが前に出てくれた。外にいた選手が伸びて(左側に走って)オプションになってもくれたので、私の前のスペースが空きました」

 日本代表は以後も、組織でチャレンジする。

 メンバー23名の平均身長差、体重差ではそれぞれ0.2センチ、6.1キロほどずつ南アフリカ代表を下回る。防御に接近した位置でのパス交換、複層的なラインによる展開と、フィジカリティに頼らぬ領域に活路を見出す。

 ところが、要所で落球に泣く。消極的に動いてのエラーではない分、組織に与えるダメージはそう多くはなかろう。ただ、この勝負においてはそれが命取りになった。

 南アフリカ代表は攻めてはタックルを蹴散らすラン、守っては接点への激しい打ち込みを重ねた。日本代表の防御の圧力を前にミスを犯しながらも、随所でパワー、スピードを活かした。点を取る時はあっという間だった。3つ決めたトライは、いずれも自陣からの長距離の突破を交えたものだ。

 最終スコアは10-20。これで日本代表は、シリーズの戦績を1勝1敗とした。

「自分たちの先制トライでいい流れをつかみたかったのですが、相手のフィジカル勝負に自分たちの体力が削られていって、自分を含め正確な判断ができなくなった。自分たち判断をする人たちは、しんどいなかでもずっと(いい)判断し続けなくてはいけないと、今日の試合で学びました」

 振り返るのは大塚だ。チャンスを作る過程ではキックも活かそうとしたが、向こうの修正力に舌を巻いたとも言った。

「この前の試合(勝利した初戦)では南アフリカ代表のディフェンスがフロントライン(前方)にたくさんいたので、その『裏』へのキックで攻めようと話していました。ただ、(この日は)それに対応して(多くの選手が)『裏』に下がっていた」

 司令塔とあり、エラーが起こる以前の「判断」について言及する。ちなみに「判断」で言えば、チームとしての選択に際立つ特徴があった。

 というのもこの日の日本代表は、ペナルティキックの獲得後に速攻を選ぶことが多かった。その傾向は、5-15と10点差を追っていた後半19分以降に顕著になった。

 チームによっては落ち着いてタッチラインの外へ球を出しそうなエリアでも、阿部が間髪を入れずにリスタート。左PRの南早紀主将が説く。

「試合を止めるのではなく、動かし続けることで相手が嫌がると思っていた。(実際に)相手は休憩をしたくて、試合を止める場面もいくつかありました。自分たちはそれをさせたくはないので、タップ(キックからの攻撃を)していました」

 果たして日本代表は、後半ロスタイムに得点している。それまでの間、複数の選手がエラーで流れを切るも、司令塔の大塚はぶれない。

 攻め急いだのでは、という趣旨の質問にこう応じる。

「自分たちはテンポアップしていこうと話していました。メグさん(阿部)のテンポについていけなかっただけ。そこは、修正していこうと思います」

 相手に迫りながら球をつなぐ。リスクを取って動き続ける。本番までの前哨戦を通し、自分たちだけのスタンスを貫き、その延長線上で、適宜、微修正を図る。ニュージーランドでのワールドカップを今秋に控え、自分たちが世界で勝つ方法を整理しているのだ。

 8月下旬には静岡・エコパスタジアム、東京・秩父宮ラグビー場でアイルランド代表を迎える。

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