コラム 2022.06.02
【コラム】ひらけ、リーグワン。

【コラム】ひらけ、リーグワン。

[ 野村周平 ]

 決勝を観戦したファンに聞いてみると、「複雑な気持ちはある」としながら、「純粋にラグビーが好きだし、リーグが盛り上がってほしい」「何もないよりはよかった」と前向きな受け止めだった。

 リーグがこういう施策を打ち出せば賛否は集まって当然だ。しかし、このチケット贈呈を巡る問題の本質は、ファンの心にモヤモヤが残るかもしれない決断に対して、リーグ側が進んで対外的な説明をしないところにあると感じた。

 東海林一専務理事は5月30日のリーグワン表彰式の後に報道陣の取材に応じ、チケット贈呈はリーグ側が提案して両チームが了承、実行委員会とリーグ理事会で承認されるというプロセスをとったと説明した。ただ議論の過程などの詳細までは語る時間がなかった。

 リーグワンの実質的なトップは、ロッテホールディングス社長を務める玉塚元一理事長ではなく、東海林氏である。スポンサー獲得からコロナ感染を巡る試合開催の可否まで、1年前に就任したばかりの専務理事にかかる責任と負担は重い。だからか、ファンの心情に配慮してそれぞれの決定の背景を丁寧に報道陣に説明する時間はほとんど取れていないのが、1年目のリーグワンだった。

 バスケのBリーグは月に1度の理事会のたび、島田慎二チェアマンが記者の質問に答える機会を作っている。チームの不祥事が発覚した際も、トップが記者会見を開き説明の場を設けた。完全ではないだろうが、なるべく情報をオープンにしてクラブや報道陣の先にいるファンに事情を理解してもらおうとする姿勢は伝わってきた。

 冒頭の決勝前日、ある光景を目にした。Bリーグファイナルのゲーム開始の1時間ほど前、東京体育館の前で島田チェアマンがファンの方々と談笑し、記念撮影をしていた。10分ほどだったが、私にはリーグとファンの距離の近さを反映しているように思えた。

 静岡ブルーレヴズの会場に行くと、チームスタッフに転身した五郎丸歩さんが試合前から試合後まで文字通り、走り回っていた。試合前後はファンにあいさつして一緒に写真を撮り、試合中はラジオに出演してハーフタイムは子どもたちとのゴールキックイベントを先導していた。あれだけの人気者が、ファンに「もう一度見に来たい」と思わせるために必死に努力していた。来季のブルーレヴズは今季以上の観衆を集め、組織力を高めたクラブに成長するだろうと思わせるに十分な光景だった。

 東海林氏は「リーグが何を目指すのかが皆さんに伝わっていない。全体としてはまだまだ途上」と1年目を総括した。決勝でトップリーグ時代を通じて過去2番目の観客数を記録したからといって「終わりよければ……」で済ませられないほど、疑問符がつく判断や出来事があったのは確かだ。

 ファン目線を忘れず、他競技の好例から学んで、積極的に情報をオープンにする。「リーグワンは変わった」と言わせる2年目にして、今季のいくつかのつまずきも成功への糧に変えてほしい。

【筆者プロフィール】野村周平( のむら・しゅうへい )
1980年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒業後、朝日新聞入社。大阪スポーツ部、岡山総局、大阪スポーツ部、東京スポーツ部、東京社会部を経て、2018年1月より東京スポーツ部。ラグビーワールドカップは2011年大会、2015年大会、2019年大会、オリンピックは2016年リオ大会、2020東京大会などを取材。自身は中1時にラグビーを始め大学までプレー。ポジションはFL。

PICK UP