スピード復帰で大仕事。サンゴリアス堀越康介、プレーオフ決勝へかける「プレッシャー」。
帰ってきて早々、価値ある仕事をした。
5月21日、東大阪市花園ラグビー場。
東京サントリーサンゴリアスの堀越康介副将が、2か月ぶりの実戦に臨む。最前列中央のHOとして、後半10分に入る。
国内リーグワン・プレーオフの準決勝で、投入時は対する東芝ブレイブルーパス東京に20-24とリードされていた。
見せ場のひとつが訪れたのは、23-24と差を詰めて迎えた同14分頃だ。ハーフ線付近右のスクラムを押し込み、向こうのコラプシング(塊を故意に崩す反則)を誘った。
「今季のサンゴリアスは前、後半で(選手が)代わっても一貫してプレーができる。スクラムでは『丁寧さ』を大事にすることで自分たちの力が発揮できると、FW全体が感じています」
身長175センチ、体重100キロの26歳。桐蔭学園高、帝京大で主将を務め、大学ラストイヤーはクラブの9季連続日本一を達成したファイターは、肉弾戦でも奮闘する。
30-24と勝ち越して迎えた23分、自陣10メートルエリア中央の接点でジャッカルを繰り出す。向こうの援護が入るより先に、倒れた走者の球に絡んだのだ。ノット・リリース・ザ・ボールの反則を誘う。
個人練習のたまものだった。おもにスクラムを教える青木佑輔アシスタントコーチによるメニューで、ジャッカルの際の最適な足の位置、体勢を会得していた。
さらには、シーズン中盤に来日していたディレクター・オブ・ラグビーのエディー・ジョーンズ(イングランド代表ヘッドコーチと兼任)からもジャッカルに関し助言されていた。
ちなみにジョーンズが帯同していた頃は、故障療養中だった。3月20日の第10節で右足の内側靭帯を痛め、「復帰まで10週間」と告げられた。「それでは、シーズンが終わっちゃう」と、「6~7週間ぐらい」での復帰を目指した。
受傷から約3週間は、上半身のトレーニングのみを実施。4週目以降は「むっちゃ、(ペースを)上げました」。早めに競技へ戻る計画を遂行した末、負けられないトーナメントで活躍できたのだ。
29日、国立競技場でのファイナルでも背番号16をつける。
「よく、戻れたな、とは思います。チームのメディカルの人も、コミュニケーションを取りながら順調にリハビリをさせてくれました」
今度対戦するのは埼玉パナソニックワイルドナイツ。最後の直接対決は2月26日の第7節。サンゴリアスは後半無得点で、17-34と敗れている。
しかしCTBの中村亮土主将いわく、ここまでの約3か月で「チームになったかな、と思います。プレーオフに入ってから一体感が出てきた」。中村亮土は今回のキーマンを聞かれ、NO8のテビタ・タタフ、SHの齋藤直人の名を挙げる。堀越とともに一緒にベンチに入った仲間だ。
「後半にゲームが動く。インパクトメンバーが大事です。堀江さんがいますが、その空気に飲まれないよう、いい風を運んできてもらいたいです」
そう。昨季のトップリーグ決勝でも敗れているワイルドナイツには、堀江翔太がいる。日本代表としてワールドカップ3大会に出てきた36歳。今季はおもに途中出場ながら、身軽かつ強靭なフィジカリティ、視野の広さを攻守両面で活かしてきた。
クラブの看板たる防御システムの形成にも携わっており、プレイングコーチ、メンターの風情も漂う。ドレッドヘアのツインテール、裾をスパッツの下に巻き込んだ短パンの形状と、実用的かつ異質なシルエットで、一見客の注目まで得る。
マッチアップする側としては、さぞ厄介ではないか。
「堀江さんが入ることでパナが落ち着きを出しているのは、外から見て感じる。(グラウンドの)なかでのコミュニケーションが優れているから、チームをもともと行こうとしている正しい方向へ進ませられる」
堀江と同じ16番の堀越はこう認めつつ、不敵に笑う。
「プレッシャーをかけまくって、焦らそうかな、と思っています。『あれ? ちょっといつもと違うぞ』と思わせなくてはいけないです。常に先手を打って、ハードワークする。僕個人だけではなく、チームでプレッシャーをかけるのが大事だと思う。対戦するのは、むちゃくちゃ、楽しみです」
雌伏期間だった5月上旬。今年の日本代表の候補メンバーとなり、「毎回、あそこに名前があると新鮮な感じになります」。プレーしていない期間があってもその切符を得られるのは、数年来、選ばれた際に爪痕を残してきたからでもあろう。
「正直、いまはリーグワンを優勝することしか考えていないです。ジェイミー(・ジョセフ日本代表ヘッドコーチ)も見ていると思うので、相手に日本代表のメンバーが2人いる(同じHOで坂手淳史主将、堀江が選出)なか、いいアピールができたらと思います」
投じられてからかける「プレッシャー」が、そのまま「アピール」の材料になる。