国内 2022.04.06

「区切りのいいところ」はどこか。サンゴリアスの田村熙が語る終盤戦の鍵。

[ 向 風見也 ]
「区切りのいいところ」はどこか。サンゴリアスの田村熙が語る終盤戦の鍵。
写真中央が田村熙。3月27日のイーグルス戦で仲間をサポートする(撮影:Hiroaki.UENO)


 芝から響く。

「まだ! まだ!」

 3月27日、昭和電工ドーム大分。東京サントリーサンゴリアスの田村熙は、参戦するリーグワン・ディビジョン1の第11節に臨んでいた。

 対する横浜キヤノンイーグルスの「まだ!」を受け入れたのは、前半終了間際のことだ。

 18-10と8点リードのサンゴリアスは、相手ボールキックオフからのボールを自陣22メートルエリアで確保した。司令塔のSOに入っていた田村は、接点からのパスを捕った。

 本来ならばもうひとつ接点を作り、前半終了を報せるホーンが響いてからパスを受け取る段取りだった。

 ただし実際には、ワンテンポ速く、球を託された。投げ手であるSHの流大から「時間、使いながら蹴って」と託された。

 まもなく、視線の先の電光掲示板の時計が「40.00」を過ぎたと認識した。前半終了か。目の前に防御が迫ってきていたのもあり、手にした球をすぐに真横に蹴り出した。ロッカー室へ戻ろうとした。

 プレーは、続く。

 確かに場内には、前半終了を報せるホーンは響いていなかったのだ。

 しかるべき時間にしかるべき音が聞こえなかったことに、田村は「鳴らないものなのかなと思いつつ、40分が経ったと思って蹴ったら、(前半は)終わらなかった」。相手ボールのラインアウトを与え、間もなく18-17と迫られた。

 ゲームの流れが傾きかねないなか、サンゴリアスは、落ち着いていた。特に田村は、件のキックと失点をかように相対化していたのだ。

「結果的にああいうふうになったことでチームに迷惑をかけたと思います。ただ選手としてはグラウンド上でしっかりと判断していて、皆、目に見えたものは間違いではなかったと感じていたと思います。あまり、気にしてはいないです」

 チームは後半もクロスゲームを演じながら、要所で相手の反則を誘った。終盤に連続で得点し、40-27で勝った。

「特別なことはしていなくて。(メンバーの)23人が80分間しっかり戦うというテーマを遂行したことで、(得点の)チャンスが巡ってきた。ただ、もう少し規律やミスの部分で高いスタンダードでやれたら、もっと流れが早くに傾いたとも思います。逆に、それだけイーグルスさんのプレッシャーを受けていたのも間違いない。これからファイナルラグビー(5月までのレギュラーシーズン後のプレーオフ)に向かって、いい勉強になる部分はたくさんありました」

 対するイーグルスは、前年度にあったトップリーグのラストシーズンで2016年度以来の8強入り。リーグワン元年となる今季も、12チーム中4位と好調を維持していた。

 さらにこの日も、昨季準Vで目下首位のサンゴリアスに応戦。キックオフで直前に蹴り込む選手や方角を変えたり、自陣からビッグゲインを決めたり。陣営は「以前なら(善戦に)喜んでいるが、いまは悔しがっている」と総括した。

 その80分は、人間の物語としても見られた。

 イーグルスの指揮官は、2018年度までサンゴリアスを率いた沢木敬介監督だった。田村は2016年に明大から東芝(現・東芝ブレイブルーパス東京)入りも、さらなる成長を求めてわずか1シーズンでサンゴリアスに移籍。当時の規定で翌年度は公式戦に出られなかったが、その時に指導していた沢木は「煕、よくなったんですよ。書いといてください」。別なメンバーを起用してトップリーグ2連覇を果たすなか、練習試合で好プレーを披露する田村のアピールを忘れなかった。

 サンゴリアスにとって今度のイーグルス戦は、以前の上司とぶつかる最初の機会だった。もっとも田村は、淡々と言葉を選ぶ。

「どうなんですかね。もしかしたら(意識が)ある選手もいたのかなと思いますけど、(指揮官が)どういうことをしたいかが皆よくわかっていたし…」

 向こうでは兄でSOの田村優主将が欠場していたが、それにも「試合前ということもあって、接点は持てていません。僕らに限らずリーグワンには兄弟の選手がたくさんいる。その視点でお客さんが来てくれるのは嬉しいことかなと思います」。66分間プレーしたイーグルス戦を、改めて総括する。

「いつもはないプレッシャーを感じていた選手にとっても、僕にとっても、目の前に対しての反応、予期せぬことが起こったことへの対応力という意味では、いいレッスンになったと感じました」
 
 ニュージーランド代表SOのボーデン・バレットと定位置を争った昨季は、プレーオフを含む計11戦のうち先発は1度のみに止まった。

 しかし今季は、メンバーを入れ替えながら戦う方針のもとでも7試合に先発。ニュージーランド代表経験者でFBのダミアン・マッケンジーもSOでの出場を希望するなか、日本生まれの28歳が多くのゲームで10番をつける。

 信頼を得る背景には、「グラウンド外」での対話があると自己分析する。

「グラウンド内での(プレーの)感触は、今年に始まったことではなくずっといいものでした。今年は、ちょっとした間合いのところについてグラウンド以外の場で(仲間同士で)話してみたり、練習の設計段階でコーチに『(試合中に)難しい展開になった時に判断が遅くなるから、そこ(を解消するための時間)を練習に入れて欲しい』と伝えたり。このようなコミュニケーションを取ることで、『ゲームになって初めて見る景色』がないようにしています」

 建設的な議論でチームをドライブするのは、開幕後も然りだ。10勝1敗と白星を先行させるなか、控え選手が登場した後の連携に課題を発見。それを踏まえ、さまざまな組み合わせでおこなう実戦形式のセッションに工夫を施すよう提案する。

 イメージはこうか。首尾よくラインブレイクした直後に動きを中断させるなら、圧力がかかった状態でどう攻撃を継続させるかに苦心したほうがよい…。

 田村は「(現首脳陣は)皆、ポジティブに声をかけてくれるので、基本的にはいい練習ができている」と前置きしながら、こう続けた。

「相手にモメンタム(勢い)が出た状態で粘る、やり合う、ということ(練習)をした方がいい癖付けになるかも…と感じたので、(プレーを途切れさせる)笛を吹くまでのタイミングを長めにとってもらえますか、と(要求した)。全部の練習がいいイメージで終わってくれなくてもいい。ミスで終わってしまっても、それをビデオで見返して『ここでスイッチが切れていたね』と(選手同士で)指摘し合うこともいい練習になります。コーチと選手との間で『区切りのいいところ』についての解釈をすり合わせていくと、ゲームの振り返りもしやすいかなと」

 リーグワンは終盤戦に突入する。サンゴリアスは4月9日、東京・駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場で第12節に挑む。NTTドコモレッドハリケーンズ大阪とぶつかる。

 いまの改善点は、やはり交代選手が入った後の動きだと田村は言う。

「手堅いプレーをしろというわけじゃないですが、流れが落ち着いていない時のグラウンド上でのコミュニケーション、判断が求められるとは思います。『ここでしっかりと相手に付け込めばこっちに大きな流れが…』という場面でフィフティ・フィフティ(一か八か)のような判断をしてしまうと、65~70分頃に厳しい時間帯が来るので。僕が(リザーブの時に)よくやっていたのは、ベンチにいる間から『どんなプレー選択をするか』『どんなメッセージをハドルの中で話すか』(を定めて試合に入る)。グラウンド上でやることは、ひとつかふたつに絞った方が強い。全員で同じ絵を見られれば、いい勢いが出せる」

 マイナーチェンジを施しながら、プレーオフ行きと初代王者を目指す。

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