コラム 2022.03.17

【コラム】物語、パフォーマンス、想像力 。

[ 向 風見也 ]
【コラム】物語、パフォーマンス、想像力 。
ドコモのHO、牛原寛章。9節は24-49横浜キヤノンイーグルス(撮影:松本かおり)

 本稿の締め切り日にあたる3月16日、急遽、ジャパンラグビーリーグワンの東海林一専務理事がオンラインでブリーフィングを開く。同日に発表された、NTTグループが保有する2つのクラブの再編についてだ。

 NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ・浦安の拠点に、新事業会社が運営するクラブを設置。かたやNTTドコモレッドハリケーンズ大阪のベースには、実業団に近い形の組織を作り、再審査を経てディビジョンの降格を受け入れる見通しだ。4月までに正式に決まる。

 考えさせられるのは、やはりチームは生き物であるという現実だ。当該クラブのスタッフによると、選手たちは今回の案件をかねて知っていたという。公式のアナウンスはもちろん、それに先立って報道されるよりもずっと前からだ。

 各自の来季以降の身の振り方を鑑みれば、方針の見直しを事前に通告することは自然な流れである。もっとも、その通告が目の前のパフォーマンスに影響を与えうるのも、これまた明白だ。

 ただでさえ、感染症のトラブルとそれへの対処方法、そしてけが人の発生に悩まされてきている。

 豪華戦力を抱えながらもラストパスをつなげるのに難儀していたとしても、昨年までに涵養した粘りを損なっているように映ったとしても、それらは起こりうる現象のひとつだったのだろうか。

「プロ(社員選手も含める)ならどんな状態でも全力を出すのが当たり前なのでは」という意見もおありかもしれないが、そもそもスポーツは人間がするものだ。人間には全力を出しやすい環境とそうでない環境があるのは、勤め先の上司の交代に苦労したり、夏にクーラーのない部屋で勉強をしたりしたことのある方ならご理解いただけるだろう。

 昨季トップリーグ16強のシャイニングアークス、同5位のレッドハリケーンズは、目下のリーグワン・ディビジョン1ではそれぞれ12チーム中12、11位となっている。

 改めて、今度の件は、グラウンド内の現象とグラウンド外で起こる諸事の関連性を考えさせられた。一方、この両者を安易に結びつけると、本当のことは見えづらくなるとも感じることがある。

 今年は世界各国で自然災害、戦争が発生している。リーグワンの選手には当該国の出身者が多くいるから、ラグビーと世の中のつながりを浮き彫りにする。

 だからといって、その選手のファインプレー、その選手の献身が、すべて「被災地」や「紛争地域」への「思い」だけで成り立っているかといえばそうではない。そのあたりの「思い」とやらの扱いは、その選手と縁が薄い人であればあるほど慎重になるべきかもしれない。

 たとえば、インタビュアーにその手の質問をぶつけられれば、取材対象者は必ずといっていいほど前向きに返答する。本心では「自分のプレーと天災は無関係だ」と思っていたとしても、それをそのまま伝えたら誤解されかねないと直感するのが大人というものだ。

 脳内で選手へ「物語性」を付与するのは各自の勝手だとしても、その「物語」とやらを周囲、ましてや当事者に押し付けるのは甚だお門違いなのかもしれない。

 渦中のレッドハリケーンズは12日、東京の秩父宮ラグビー場で横浜キヤノンイーグルスに24-49で敗れる。大量失点と実戦未勝利の背景について、ゲーム主将だった川向瑛は「自分たちが何をすべきか、明確に伝えられてはいますが、その遂行力が足りていない。後は、勝負強さというところ(が課題)」。あくまで、自分たちに矛先を向けていた。

【筆者プロフィール】向 風見也( むかい ふみや )
1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(共著/双葉社)。『サンウルブズの挑戦』(双葉社)。

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