激しく淡々と。静岡ブルーレヴズのクワッガ・スミスは「4強」入りをあきらめない。
ハーフタイムまでに7-27とされながら、最後は24-30に詰めた。
3月5日、東京は江戸川区陸上競技場。リーグワン・ディビジョン1の第8節で、それまで2勝5敗だった静岡ブルーレヴズが奮闘。前節まで首位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイに、最後まで食い下がった。
追い上げる際のスコアは、ラインアウトからのモールによるものが多かった。しかし、そのシチュエーションを促した要素にはタフな防御もあった。特に、7番が球際で渋く光った。
疲れのたまる後半20分以降、敵陣の深い位置へ長距離を駆け上がってのキックチェイス。向こうの蹴り返しに圧をかけた。
続く30分頃には、自陣10メートル線付近左で味方とともに相手走者を羽交い絞め。球出しを防ぎ、自軍ボールスクラムを獲得した。
以後も守勢を強いられながら、自陣10メートル線付近右のラックへ飛び込む。スピアーズが抱える球に手をつけ、もぎ取り、仲間へ静かに手渡した。
決して身体の大きくはない7番は、終始、激しいプレーを淡々と遂行した。
クワッガ・スミス。身長180センチ、体重94キロのサイズにして、2メートル前後の猛者が並ぶ南アフリカ代表のFW陣に名を連ねる。その事実でも凄みを示す28歳は、チーム名がヤマハ発動機ジュビロだった2018年からこのクラブに在籍し、ブルーレヴズでも役割を果たす。
東京への遠征を翌日に控えた11日、オンライン取材に応じる。スピアーズとのタフなゲームで力を発揮できたわけを聞かれれば、自分の手柄を誇るより仲間の進化を誇った。
「チーム全体のディフェンスが本当によくなっていた。1対1のタックル、自分たちのシステムの遂行力が上がっています。そこで、私自身にターンオーバー(攻守逆転)するチャンスが増えていました。この取り組みを続けて、私もターンオーバーを増やしたいですね」
確かにブルーレヴズの防御網は、試合を追うごとに崩れづらくなってきたような。
実戦2試合目にあたる第5節では、26-59と大敗している。2月5日、東京・駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場で、東芝ブレイブルーパス東京の強力なランナーに多彩なパスをつながれた。
ところが2週間後の第6節までに、列をなしてダブルタックルを放つ生来のシステムを再確認。特にタックラー同士の間隔を調整し、横浜キヤノンイーグルスの走者に鋭く刺さった。
この日もモールを押し込まれて18-28と敗れるも、守りには複数の選手、スタッフが手ごたえをつかんだ。その2節先のスピアーズ戦時も、その流れは保たれた。
12日、江東区夢の島競技場で開かれるNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安戦では、進化を結果に結び付けたい。スミスは言う。
「ブレイブルーパス戦では、アタックに関しては問題なくできていたのですがディフェンスの時に点数を取られすぎた。ただ、その部分を強化したことで、チーム全体がよくなっていきました」
さかのぼって1月上旬、チームはクラスターを発生させる。開幕からの3戦を不戦敗とするなか、スミスも別な理由でタフな時間を過ごしていた。
本来なら「シーズン開幕3週間前に合流する」つもりだったが、予定されたフライトをキャンセルした。変異株への水際対策のためだ。
クリスマス以降の約2週間は、日本のクラブに所属する他の南アフリカ代表選手とタンザニアで汗を流した。1月中旬の入国後は、狭いホテルの部屋にクラブ貸与のワットバイクを持ち込んだ。限られた環境のもと、状態を上げようとしてきた。
いまは3月に入国のパートナーとともに、静岡の暮らしを楽しむ。冬の頃を思い返す。
「陽性者が出ていた関係で3週間のキャンセルがありました。それを聞いた時はすごく残念に思いました。3試合分、マッチポイントを取れる機会がなくなったのですから。ただ、選手たちはみな大事に至らず、(活動再開後は)気持ちも取り戻して、リーグ戦に挑めています。毎ゲーム、毎ゲームを通し、明らかに成長している。これを継続して、トップ4に入りたいです」
リーグワンの各クラブには、南アフリカ代表の仲間が在籍する。
特にコベルコ神戸スティーラーズでは、アウトサイドCTBのルカニョ・アムがシーズン途中の契約を発表。すでに合流済みで、規定上は20日のブルーレヴズ戦からプレー可能なようだ。
よりによって、自分たちとの試合から出るのか。そうは思わなかったかと聞かれ、スミスは「…はい」。いたずらっぽく笑う。
「彼が日本に来ることは、私も聞いていました。国際的でかつ、興味深い選手でもあります。スーパーラグビーでも何回も対戦してもいます。(日本での再会が)どんな感じになるか、楽しみでもあります」
来季以降について聞かれれば、「チームと話し合っている」「コロナの状況次第」としながら「自分としてはリーグワンでのプレーが大好き。あと何年かは、日本でプレーしたい」。2023年のワールドカップ・フランス大会への出場を前後し、リーグワンのシーズンを過ごすのが理想だという。
日本のファンは、身体のボリュームと無関係に強いこの人の動きをもっと生で見られそうだ。