【ラグリパWest】たったひとりの4年生。竹下尚太 [大阪学院大主将/ロック]
松井は5年前に現役引退。その翌年、週末コーチになった。先にチームにコーチとして関わっていた近鉄同期のタウファ統悦の誘いがあった。
「ラグビーを教えながら生きていきたいという思いが強くなりました」
翌2019年、監督に昇格する。タウファは花園の普及担当などの主業があった。松井は近鉄バスを退社する。外部指導員で年俸は下がった。悩みの中、妻の順子が背中を押す。
「好きなことをやったらいい。アカンかったらその時に考えよう」
2人の子育てをしながら、会社員として働く順子は肝っ玉の嫁であり母である。
この春で監督4年目を迎える。この間、あいさつや礼儀を教え込んだ。
「お話し中、失礼します。よろしいですか?」
会話の間、部員たちは正しい行動をとる。
「それがラグビーをする基本やと思います」
就任当時は練習をアルバイトやヘアカットで休んだり、早退する者もいた。
「スポーツ推薦で入って、奨学金をもらっている者もいる。それはない。そういう学生とは何回も何回も話し合いました」
経済的な理由がない限り、アルバイトは3年生から活動に差し支えなければ許可をした。
その奮闘を周囲も認めるようになる。
「摂南さんが練習試合を組んでくれました」
松井は声を弾ませる。Aリーグチーム。河瀬泰治を総監督に抱き、瀬川智広が監督に座る。河瀬はバックローとして日本代表キャップ10、瀬川は東芝(現BL東京)や7人制日本代表を監督として指揮した。
松井の下、ガクインは竹下と3年生を中心に10人のリーダー制をとる。
「自主性を持ってほしいのです」
竹下は話す。
「松井さんやトーエツさんから言われるんじゃなくて、自分たちで作れるようにしていきたいです。その方がいいチームになります」
3月1日、ベンチプレスの測定などで2022年度のチームは本格始動した。部員数は竹下の代から順に1、6、21。新1年生は9人の入部が決まっており、計37人になる。
竹下と松井の目標は同じだ。
「Cリーグで全勝優勝して、Bに昇格する」
後輩たちのために竹下は置き土産を残したい。1年生の時はBだった。ガクインは最上のAで戦ったことはない。創部は学校設立4年後の1967年(昭和42)。今年、部ができて55周年になる。主なOBは安藤哲治(てつじ)。石見智翠館の監督として、冬の全国高校大会出場31回の強豪に仕立て上げた。
そのチームをつなぎたい。松井は竹下を評する。
「まじめです。ひとりだけの部員なのにラグビーを続けてくれました。精神的にも強いです。1年の時に試合でタックルミスをして、悔し泣きした姿が残っています」
たったひとりの4年生は唯一無二の主将でもある。
ガクインのスローガンがある。
<Logos And Pathos>
ギリシャ語で「理性と情熱」。その2つを胸に秘め、勝利と昇格をつかみ取りたい。