メンバー外選手の圧力、日本人育成…。東京サントリーサンゴリアスの競争力に迫る。
大物が競演する。日本ラグビー界最高峰、リーグワンの魅力のひとつだろう。
1月16日、東京・味の素スタジアム。東京サントリーサンゴリアスとトヨタヴェルブリッツとの第2節では、世界トップクラスの戦士が動き回っていた。
ピーターステフ・デュトイ。2019年に世界最優秀選手となった南アフリカ代表FLだ。ヴェルブリッツの6番をつけていた。
前半22分、自陣中盤から大きく右隅まで戻り、強烈なタックルを繰り出す。さらに後半24分には、自陣ゴールライン上で相手のグラウンディングを阻止した。転んではすぐに起き上がり、味方のピンチを防ぐ。
身長200センチ、体重116キロと大柄なデュトイは、同僚SHの茂野海人主将いわく「本当に、動き続けるプレーヤー」。後半31分に退くまで、持ち味を発揮した。茂野は補足する。
「リーダーシップもあり、練習中のハドル(円陣)でトークをしてくれるような選手でもあります」
対するサンゴリアスには、ショーン・マクマーンがいた。
オーストラリア代表としてのキャリアが豊富なNO8は、2度作ったトライシーン以外でも見せ場を作る。
前半21分、自陣中盤右の相手ボールスクラムから右隅を攻められると、自陣左隅まで駆け戻ってタックル。剛腕で球を奪いかけた。後半14分には、味方のミスボールから始まった攻めを効果的なジャッカルで防いだ。
ノーサイド。50-8。綺羅星のパフォーマンスと同時に、チーム総体としての運動量と連係が勝負を分けたか。スコアボードに左右されずタフさを貫いたことについて、CTBの中村亮土主将はこう述べた。
「試合が続いているから、(集中力やプレーを)切る理由がない」
前身のトップリーグ時代から、出場枠の規定が様変わりした。それまで2人まで同時に出られた他国代表経験者は、「カテゴリーC」と名付けられて最大3人まで揃い踏みできる。
さらに日本代表資格のある海外出身者は、日本で生まれ育った選手と同じ「カテゴリーA」に位置付けられる。代表強化の名目で、国内リーグが国際色豊かになりつつあるのだ。
しかし、左PRの石原慎太郎はこう話す。
「試合に出た選手がしっかりとしたパフォーマンスを残していますが、きっと違う選手が出ても同じようにできたと思います。試合に出ていないメンバーのバックアップ、プレッシャーがあるなか、外国人選手にも緊張感が生まれ、チーム全体として良い感じでできています」
トップリーグで史上最多タイとなる5度の優勝を誇る強豪には、日本の大学ラグビー界からも有望株が集う。激しい部内競争が、特定の選手への依存心を組織から遠ざけている。
ちょうど石原の隣にいたSOの田村熙も、入部した2017年度以降の様子を踏まえて言った。
「僕個人としては、外国人選手、日本人選手というよりは、練習でそのポジションのうちベストなパフォーマンスを出した人が、試合に出ている、という感覚です。僕も、中野幹(右PRで先発)さんも、慎太郎さんも、亮土さんも、以前はサンゴリアスのBチームの試合に出ていた。そういう選手が、ひとつ、ふたつの(主力同士での)試合で自信をつけ、グラウンドに立っていいプレーをすると、また新しい自信を得られる。そんななかいま出ていない選手も、来週には試合に出られる準備をしなくてはというマインドになる。…そういう文化が、このチームに昔からある」
確かにこの日のサンゴリアスでは、生え抜きの「カテゴリーA」勢も際立っていた。
石原がロータックル、田村がスペースへのパスやキックで魅したうえ、マクマーンらが並ぶFW第3列では小澤直輝が光る。再三のジャッカルで、向こうの流れを止める。
相手にアドバンテージを与えていた前半6分、球に食いつくやデュトイのスイープ(ジャッカルを引きはがす動き)にも動じなかった。以後は、そのデュトイが持つ球へ絡むこともあった。
新人FLの下川甲嗣は、強烈なタックルを打ち込んでは起き上がり、防御網を埋める。攻めてはタッチライン際で球を呼び込み、豪快な突破と防御を引き付けてのパスでチャンスを作っていた。
SHの流大前主将は、今季開幕後に「キヤノンのメンバー表を見て、いいな、と思いました」と話したことがある。
かつてサンゴリアスを率いた沢木敬介監督が指揮する横浜キヤノンイーグルスは、開幕から2戦続けてBK陣のスターターを国産選手で固めた。
海外出身者の入国遅れが背景にあった一方、身体衝突の多いCTBへ入った梶村祐介、南橋直哉がフットワークを活かして突破を重ねたのも確かだった。
流は日本代表で、多国籍の選手と手を組んでもいる。そのため2019年のワールドカップ日本大会後は、テレビ出演の少ない外国人選手の献身ぶりを意図的にアピールしていたものだ。
国籍で選手のよしあしを判断しない態度は明らかだが、リーグワンにおけるサンゴリアスの態度をこのように示す。
「大学から入ってきた日本人選手が試合に出ている。これがサンゴリアスの特徴になっています。他のチームも含め外国人選手を増やしていますが、あくまで日本人が底上げをするのが自分たちのチームです」
23日の第3節は対戦相手の辞退により不戦勝。1月30日、東京・秩父宮ラグビー場での第4節でリコーブラックラムズ東京にぶつかる。今季初先発が10名と、それまでと異なる隊列を組んだ。
そういえば中村亮土主将も、ヴェルブリッツ戦後の会見で「これからメンバーが代わるなかでも、質の高いラグビーができるよう準備したいです」。中盤戦以降のスコッドの入れ替えを予想していたような。リーグワン初代王者になるための底力をつける、その途上にある。