コラム 2022.01.27
【コラム】出航の風景。リーグワン開幕に見えた意志、驚き、地域と世界。

【コラム】出航の風景。リーグワン開幕に見えた意志、驚き、地域と世界。

[ 直江光信 ]
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 長く唱えられてきた地域密着の大切さも、あらためて実感した。チーム名に地域の名称が入り、「自分たちの街で活動するチーム」という拠り所を明確にしたことで、より多くの人が親しみを抱きやすくなった。チームへの愛着がサポート意識の高まりを呼び、厚く熱い声援に背中を押されて、選手たちはよりいっそうの力を発揮する。そんな選手たちの感激的な奮闘がチームと地元への誇りにつながり、誇りの生み出すエネルギーが地域を活性化する。その幸福のサイクルを全国各地に創出することが、リーグワンの意義であると再認識した。今後は各チームとも、さらに地域色を鮮明に打ち出す方向へと傾いていくだろう。

 鳴り物入りで来日した世界的名手のため息の出るような美技を目撃する喜びもさることながら、「こんな選手がいたのか」の驚きもまた、3ディビジョン制のリーグワンのおもしろさだ。現在のところ個人的な最大の「発見」は、ディビジョン2所属の釜石シーウェイブスのLO、チャールズ・マシュー。肉弾戦のタフさで知られるイングランドのプレミアシップで10シーズンプレーし、ハリクインズで163試合、ワスプスで28試合出場の経歴は伊達じゃなかった。セットプレーやモールの軸となり、ボールを持てば相手防御のもっとも分厚いところへ迷わず身を投じて、ディフェンスでは頑健なタックルで相手をぐいと押し戻す。レッドドルフィンズ戦でのパフォーマンスは、それまで存在を知らなかったことが恥ずかしくなるほどだった。24のクラブには、きっとまだまだ隠れた好プレーヤーがいるはずだ。

 1月23日。熊谷ラグビー場でのワイルドナイツとイーグルスの激突には、リーグワンがビジョンに掲げる「世界」をはっきりと意識させる迫力とスリルがあった。キックオフ直後からイーグルスが満点のパッションで攻め立てるも、ワイルドナイツは堂々とそれを受け止め、球を奪うやただちに切り返す。仕事が重なり現地観戦はならなかったが、緊迫した試合展開にスマートフォンの小さな画面を凝視しながら「やっぱこれだよ」と何度も頬が緩んだ。今季初戦とは思えぬパフォーマンスで貫禄の勝利を収めたワイルドナイツのここからの上昇は間違いない。飛ぶ鳥を落とす勢いのイーグルスも、この敗戦を糧にまた力を伸ばすだろう。ホストが入れ替わる4月23日の再戦は、必ず今回以上のハイレベルな戦いになる。

 開幕直前の不祥事発覚や相次ぐ開催中止に出だしでつまずいた感があるのは否めないが、芝の上とその周囲に充満する期待感は貴重な希望の光だ。一度訪れた人に、また来たいと思わせる魅力が、リーグワンの各試合にはある。それを一つひとつ、丁寧に積み重ねていった先に、2019年のような熱狂の光景が広がっているのだと思う。

【筆者プロフィール】直江光信( なおえ・みつのぶ )
1975年生まれ、熊本県出身。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。早大時代はGWラグビークラブ所属。現役時代のポジションはCTB。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。ラグビーを中心にフリーランスの記者として長く活動し、2024年2月からラグビーマガジンの編集長

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