帝京大に挑む「B・I・G」。明大副将の大石康太、決勝へ「細かいところに目を向ける」。
共通言語を持つチームは強い。世界的名将もうなずく普遍的な法則に、このチームも則っているような。明大ラグビー部は、クラブで編んだキーワードを重んじる。
「B・I・G」
素早く攻めるために素早い位置取りを心掛ける。そのためには、倒れた選手は2秒以内に起き上がる。かような意識を「バック・イン・ザ・ゲーム」の略語として「B・I・G」と定める。
このフレーズは、昨年6月で辞任した田中澄憲前監督がチームにいた頃からある。「凡事徹底」との方針を貫く神鳥裕之監督のもとでも、グラウンド上でもっとも大切にする意識は「B・I・G」に集約される。
1月2日、東京は国立競技場。昨季落としている大学選手権の準決勝に挑み、東海大に39-24で勝った。2019年度以来のファイナル進出を決める。
12月上旬まで参加した関東大学対抗戦Aでは帝京大、早大に2敗を喫したが、同月中旬から挑んだ大学選手権では早大などから2勝。成長した点を聞かれ、大石康太副将は答える。
「クイックテンポ、クイックセットのためにバック・イン・ザ・ゲーム(がある)。2秒で起き上がる。…2秒で起き上がれてはいるんですが、(その時に攻めるべき)スペースを見つけられていないという課題があった。そこで、ツーウェイアタックです」
この日は全体的に深めのラインを敷き、左右どちらかの空いた箇所へパスを飛ばした。
早めに起立した選手が前を見て、突破できそうな場所を探していたのだろう。かくして東京五輪でも躍動したWTBの石田吉平ら好ランナーが、パスをもらう前から勢いよく走った。
サンウルブズ(国際リーグのスーパーラグビーに挑戦)の元練習生でもあるFBの雲山弘貴は、要所で長短のキックを放つ。
前半までに21-3とリードし、後半15分に21-24と勝ち越されてからはさらにギアが上がった。
「ツーウェイアタック」という言語の意味を、実際のパフォーマンスに反映させた。大石は続ける。
「スペースがある方にボールを運ぼうとしていきました」
まず歩む道を信じ、その時々で適宜マイナーチェンジを図ってきた。かくして頂上決戦に挑める。対抗戦で負けた帝京大が決勝の相手になるのは、大石が話した数十分後に決まった。1月9日までの過ごし方を聞かれ、投票制で決まった実直な副将はこう答えた。
「あと1週間でスキルがうまくなることはない。B・I・Gで、前を見る。(防御で)しっかりゲインライン(攻防の境界線)を越えさせない。(タックルは)肩でヒットする。(倒れて球を置く際は)ロングリリースをする。…細かいところに目を向けながら準備したい」
3年時までは控え暮らしが続いたが、「チームのために何ができるかを考え、行動しているつもりはありました。小さいところですが、スリッパを並べるとか、食堂を布巾で拭くとか。ラグビーと関係ないところもグラウンドに出た時につながってくる」。今季からレギュラーポジションを獲得すれば、堅実な突進と球への絡みで渋く光ってきた。
以前は豪快な印象で知られた古豪の、先入観を覆そうとしてきたような。春先から「ひたむきに、泥臭くラグビーをするのがキーポイントです」と謳っている。フィジカリティに長ける帝京大との一戦でも、その態度は変わらないだろう。