海外 2021.12.28

バイヨンヌ女子、ストライキ。その顛末と未来図

[ 福本美由紀 ]
バイヨンヌ女子、ストライキ。その顛末と未来図
フランス代表として活躍するSHポリーヌ・ブルドンもバイヨンヌから出たひとり。(Getty Images)



「私たち、バイヨンヌの選手は、本日11月7日、フランスカップのトゥールーズと試合をプレーすることを拒否します。」

 フランス女子1部リーグのエリート1でプレーしているバイヨンヌのSNSに投稿された公開状の文頭だ。急速に強化が進んでいる他チームとの力の差を試合のたびに肌で感じていた選手たちは、昨季からクラブ側にトレーニング環境の改善と人員の補充を求めてきた。
 しかし状況はなかなか変わらず、主力選手やコーチも他チームへ移籍した。

 ワールドラグビー女子最優秀選手にノミネートされたこともあるフランス代表SHポリーヌ・ブルドンもその1人で、「難しい決断だったが、ワールドカップも近づき、設備や体制がしっかり整っているクラブで自分を成長させることを選んだ」とトゥールーズへの移籍の理由を述べている。

 公開状では、「今季開幕から3試合で16得点に対して122失点、さらに負傷者14名。練習に20人しかおらず、まともに練習できない。心身ともに危険な状態だ」と窮状を訴えている。

 しかも、フロントローに負傷者が出て試合に出られるのは3人だけになってしまった。エンゲージでヒットもなく、押すのも1.5mまでのスクラムしか経験していない下のカテゴリーの選手を、いきなり1部リーグのチームと対戦させることもできない。

 フランスカップは、エリート1の試合が組まれていない代表活動期間中に、代表以外の選手にもプレー時間を与える目的で行われている大会で、この大会での結果はエリート1の成績には影響しない。
 このことも彼女たちがこの試合をボイコットする決断を促しただろう。

「この試合を拒否することで、私たちの窮状を知ってもらい、現状が改善されることを求める。私たちも選手としての責任を自覚しており、これからもラグビーに取り組んでいく」と公開状を締め括った。

 現地メディアが、「バイヨンヌの女子選手、環境改善を求めてストライキ」と報じ、注目を集めた。

 しかし、バイヨンヌの会長、および理事会は、彼女たちの行動に対して「クラブの名に傷をつけた」と、1週間後の理事会で今季のエリート1を棄権することを決定した。コーチは呆気にとられ、選手は泣き崩れた。

 チームを支援してきたバイヨンヌ市や、これからサポートしていくことを計画していたバイヨンヌの男子プロチーム、女子ラグビーの発展に力を入れているフランス協会も、クラブの役員と選手と話し合いを持ちたいとコメントしていたが、最終的に棄権の申請が受理され、協会から正式に発表された。

 協会はその声明の中で、「この事態を遺憾に思う」としながら、「女子ラグビーは協会の最優先事項の一つであり、今後も代表チームとクラブチームの力を基盤とした方針を継続する」と改めて訴えた。

 バイヨンヌの選手たちの選んだ方法は行き過ぎだったのかもしれないが、彼女たちを支援し、この決定を惜しむ声は多く、メディアも理事会の短絡的な決定に批判的である。

 バイヨンヌの会長が、「我々はあくまでもアマチュアのクラブだ」と発言しているが、エリート1で生き残っていくためには、長期ビジョンの下、環境を整え、戦略的なリクルートも行いながら強化する、プロのように勝つためのマネージメントが必要になってきている。

 協会の発表から1週間後、『アヴィロン=バイヨンヌ・キャンパス』の着工が発表された。よりラグビーがしやすい環境をとバイヨンヌ市が主体となって進めているプロジェクトで、現在の男子プロチームのホームスタジアムに隣接した敷地に、新しいトレーニング施設やクラブハウスが建設され、そこには男子プロチームだけでなく、女子チームのためのスペースも用意されていた。


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