【ラグリパWest】人としての成熟。クウェイド・クーパー[花園近鉄ライナーズ/スタンドオフ]
クウェイド・クーパーは成熟する。
近鉄花園ライナーズのスタンドオフは、33歳。この秋、「ワラビーズ」と呼ばれる豪州代表に復帰した。
「めちゃくちゃいい気持ちでした」
目じりは下がる。試合中の刺すような視線はどこにもない。
最後にシャンパン・ゴールドのジャージーに袖を通したのは2017年6月。イタリア戦だった。4年の月日が流れる。
「体も精神的な部分もフィットしていました。できるな、楽しみだな、という感じでした。オフにゆっくりする選択肢は元々、私にはありません。常に、自分は何者か、ということを意識して過ごしています」
近鉄で2021年春のシーズンを過ごし、半年のオフは南半球に戻る。その間もトレーニングを怠らなかった。
豪州代表の監督、デイヴ・レニーから連絡が入ったのは、7月下旬。同じポジションのジェームズ・オコーナーは股関節を痛め、ノア・ロレシオは21歳と若かった。
9月12日、ゴールドコーストでの南アフリカ戦から先発する。決勝を含め7本のPGと1本のコンバージョンを記録。28−26と勝利の立役者になった。南アフリカからの白星は3年ぶり。この試合を含めチームは5連勝。クーパーはその間、司令塔として先発を続ける。最後は大分での日本戦。32−23とする。
開始6分、先制トライを引き出す。左右の細かいステップで2人抜く。タックルを受け、倒れながら内へのオフロード。ふわっとしたラストパスはウイングのトム・ライトに渡る。クーパーはこの柔らかいプレーに触れる。
「自分自身の精度が上がっているのは確かです。ただ、年を重ねる中で、結果よりも、過程を大切にするようになってきました」
勝利やトライを絶対としない。それよりも周囲を見る、生かす、ソフトになる。その結果が勝ちにつながればいい。今のクーパーは達観の域。豪州代表のキャップはそれまでから5を足し、75になった。
変化はこれまで2季を戦った日本、とりわけ近鉄でなされる。チームは二部。母国と比較すれば、そのレベルは低い。このチームを勝たすためには、自分がみんなのいる位置に下りる。高みにとどまらない。
9歳下の片岡涼亮はクーパーを語る。
「僕はダッドと呼び、彼はマイ・サンと返してくれます。クウェイドはできないことを怒ることはありません。できることを100パーセントでやらない時に怒ります」
父と息子。ウイングの正位置を争う2年目にとっては家族同様だ。
「私は仲間には優しくありません。練習中は厳しいし、怒鳴ったりもします。でも、それはその選手のため、チームのためです。ただ、その選手が本当に落ち込んだ時には、肩を貸す用意はできています」
クーパーは近鉄に恩義を感じている。
「私は来るべくして来ました。会社やチームの人々にすごく感謝しています」
3年前、ブラッド・ソーンはクーパーを外す。スーパーラグビー、レッズの監督である。クーパーは18歳からこのチームでプロになり、12年プレーを続けた。その2018年は地元クラブ。翌年はレベルズで過ごし、秋から近鉄に加わった。いわば、底の状況だった。
豪州代表を5連勝させた復活ヒーローには、続く欧州遠征参加の打診があった。
「私は今、近鉄の選手です」
その要請を辞退する。近鉄は遠征参加を認めていた。若かりし頃、首脳陣批判などをして、「悪童」と呼ばれた面影はない。
クーパーは最近、望んでいた豪州の市民権を手に入れた。
「テストにパスしました。すでにニュージーランドには家もないし、家族もいません。全員、オーストラリアにいます。私は一生、この国で暮らしていくつもりです」
島国から大陸への移住は13歳。それから20年が過ぎた。今、新しい母国のラグビーより、近鉄を選んだ。「チームマン」という単語すら小さく、かすんでしまう。
年明けに始まるリーグワンで、近鉄はディビジョンツーで戦う。初戦は1月10日、相手は三菱相模原ダイナボアーズだ。
「楽しみです。ファンの人たちにはワクワクするラグビーを見せられると思います」
東京・秩父宮で、午後1時のキックオフを予定している。
年が明ければ、日本での暮らし4年目をまたぐ。この国を気に入っている。
「美しい国。すごく好きです。残念なのはコロナで家族を呼び寄せられないこと」
一家は8人。両親、姉と2人ずつの弟妹。すでに甥や姪もいる。タスマン海を越えて来ただけに、そのつながりは強い。
この国での息抜きはカフェでお茶を飲み、本を読むこと。堀江にお気に入りの店がある。
「今日もこれから行くつもりです」
大阪の繁華街はミナミとキタ。堀江はミナミの西側になる。今は若者を軸に文化の発信源になっているが、古くは商売の街だった。新旧が交差する中、気分転換を楽しむ。
「何だったらここに住んでもいいくらいです」
プロ17年目。極東の島国に根を下ろす。2022年、クーパーは近鉄を包むすべてのもののために戦ってゆく。