国内 2021.12.01

国内強化試合で見せた、車いすラグビー日本代表の決意。

[ 張 理恵 ]
国内強化試合で見せた、車いすラグビー日本代表の決意。
進化中の橋本勝也(左)と島川慎一。(撮影/張理恵)
ディフェンス力の高い乗松聖矢(左)。(撮影/張理恵)
ファンの応援を楽しみにしていた今井友明(中央)。(撮影/張理恵)
車いすラグビー日本代表を率いるケビン・オアーHC。(撮影/張理恵)
成長を誓ったチームA。(撮影/張理恵)




 期待を裏切らない熱いプレーが、新たなスタートをきった車いすラグビー日本代表の明るい未来を予感させた。

 11月20日と21日、車いすラグビー日本代表候補選手による強化試合「2021 ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」が千葉市の千葉ポートアリーナで開催された。
東京パラリンピック代表組を含む日本代表候補24名が3チームに分かれ、総当たり戦の予選3試合と決勝戦を戦った。併せて、障がいの重い“ローポインター”と呼ばれる選手のみが出場する「Low Pointers Game」がエキシビションマッチとしておこなわれた。

 車いすラグビーの大会としては2019年12月の日本選手権以来、約2年ぶりとなる有観客試合。東京パラリンピックの試合を見てファンになったという親子連れや、多くの車いすユーザーが会場を訪れた。
観客席では選手の名前が大きく書かれたタオルや手作りの応援ボードが揺れ、試合のピリオド間には会場DJのコールに合わせて手拍子で高揚感をあおった。
「観客の前でプレーするのが楽しみで眠れなかった」という今井友明の言葉が象徴するように、この日が来るのを待ちわびた選手たちは、応援を力に換え全力でプレーした。

 ひときわ脚光を浴びたのは、チーム最年少の19歳で東京パラリンピックに出場した橋本勝也だ。
スタートからパワー全開、若さを武器にコートを縦横無尽に走り回ってトライを奪い、開幕戦ではチームの全スコア58点中30得点を挙げる大活躍。

 1対1での間合いの取り方や動きのキレにもさらなる成長が見られ、コートの3分の2の飛距離のロングパスを正確に決めて見せると、会場から驚きの声があがった。
 場内実況の解説を担当した池崎大輔は「ディフェンスの仕方やパスの出し方がうまくなった」と後輩のプレーを絶賛した。

 東京パラリンピック以降、競技経験の浅い選手を中心に2回の育成合宿をおこなった日本代表。
 今大会では、個人のスキルアップや、ラインナップ(コート内4選手の組み合わせ)の拡充を目的とした試みが随所に盛り込まれた。
「今は『Rebuilding(再構築)』のとき。日本のラグビースタイルを強化して、来年の世界選手権、そして2024年のパリに向けて、すべての選手が求められるレベルでプレーができるように経験を積ませたい」
 車いすラグビー日本代表 ケビン・オアーヘッドコーチ(以下、HC)は現在の状況についてこのように語り、その意図はチーム編成にも表れていた。

 育成合宿に参加した若手メンバー中心の「日本代表候補A」(以下、チームA)。そして、東京パラリンピック代表組をバランスよく配置した「日本代表候補B」(同・チームB)と「日本代表候補C」(同・チームC)。
 経験値の差もさることながら、障がいが比較的軽い“ハイポインター”がいないチームAにとってはタフな展開が続いた。

 競技歴22年、世界屈指のタックラー・島川慎一(チームC)が「これが世界基準だ!」と言わんばかりの強烈なタックルを浴びせれば、世界がそのディフェンス力の高さを警戒する乗松聖矢(チームB)は自分より障がいの軽い選手とのマッチアップでターンオーバーを奪ってみせた。

 チームAの選手たちは倒されるたびに歯をくいしばって起き上がり、折れそうな心を奮い立たせながらボールを追いかけた。チームの指揮を執ったケビンHCのアドバイスに必死に耳を傾け、試合が進むにつれ1プレーごとに執着心が増していった。仲間とコミュニケーションをとりながら連係プレーで状況を打開していく過程には目を見張るものがあった。

 大会は決勝戦で緻密なチームプレーが光ったチームCの優勝で幕を下ろした。
ベテランと若手、同じ障がいクラスのライバル同士、切磋琢磨してオールジャパンで高め合っていく、そんな決意が伝わる大会だった。
 会場からの鳴りやまない拍手に、選手は力いっぱい手を振って応えた。

 12月の代表合宿からは来年10月におこなわれる世界選手権(デンマーク)に向けた強化が始まり、その先のパリパラリンピックも見据えたチーム作りが本格化していく。

 ケビン・オアー日本代表HCは、「技術面での強化に加えてメンタルタフネスにフォーカスした取り組みも進めていく」と、今後の強化プランを語った。

 今大会に出場した強化指定選手だけでなく、キラリと光る素質を持った新人も現れている。
 日本全体の底上げと同時に、これから代表メンバー争いは激化していくことだろう。
 車いすラグビーからまだまだ目が離せそうにない。

<試合結果>
11月 20日(土) 予選
第1試合 日本代表候補A 30 – 58 日本代表候補B
第2試合 日本代表候補A 32 – 50 日本代表候補C
第3試合 日本代表候補B 52 – 51 日本代表候補C

11月21日(日)
エキシビションマッチ Low Pointers Game
決勝戦 日本代表候補B 38 – 48 日本代表候補C

■ 出場選手
【日本代表候補 A】
・安藤 夏輝 0.5
★小川 仁士 1.0
・渡邉 翔太 1.5
・日向 顕寛 1.5
★中町 俊耶 2.0
・今野 匡人 2.0
・白川 楓也 2.5
・荒武 優仁 2.5
・櫻井 永遠 2.5

【日本代表候補 B】
・関 卓也 0.5
★長谷川 勇基 0.5
★今井 友明 1.0
★乗松 聖矢 1.5
・壁谷 知茂 2.0
★橋本 勝也 3.5
・村田 和寛 3.5

【日本代表候補 C】
★倉橋 香衣 0.5 F
・岸 光太郎 0.5
★若山 英史 1.0
・乗松 隆由 1.5
・菅野 元揮 2.0
★羽賀 理之 2.0
・下野 勝也 3.0
★島川 慎一 3.0

※数字は障がいの度合いによって分けられるクラス。数字が小さいほど障がいが重いことを意味する。
★は、東京パラリンピック日本代表メンバー。


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