帝京大の細木康太郎は「ヒットした瞬間に自信を持った」。早大とのスクラム合戦、深層は。
試合はロスタイムに突入していた。
2分間ほど保持した自軍ボールをタッチラインの外に出せば、勝利が決まる。そのタイミングで、帝京大は早大に球をさらわれる。
ハーフ線付近からの逆襲。自陣ゴール前に戻る。
11月3日、東京の駒沢オリンピック公園陸上競技場。関東大学ラグビー対抗戦Aの5試合目に臨んでいた。一時は29-10と差をつけながら、持久力とスキルが長所の早大から反撃を許す。ノーサイド直前のスコアは29-22と、リードはわずか7点となっていた。
帝京大は結局、逃げ切った。決死のカバーとロータックルを重ね、カウンターラックを決める。取り戻したボールをデッドボールラインの外へ蹴りだし、同カード3季ぶりの白星を得た。
「きょうの試合でかなり自信はついたと思います」
こう語るのは細木康太郎。先発フル出場の主将である。成功体験に喜びながら、地に足をつけてもいた。
「河瀬(諒介=早大FB)選手のような強力なランナーにゲインされるところはまだまだ反省です。ただ、ディフェンスでも練習してきたのがゲームで相手にゲインをさせないこと、ゲインされてもつながってペナルティせずにディフェンスをし続けることでした。練習の成果が出ていると感じます」
この日はスクラムでも魅した。好プッシュで何度も反則を誘い、主導権を握る。
岩出雅之監督によると、チームには10月からOBで元日本代表PRの相馬朋和氏が合流。部員や以前から指導する福田敏克FWコーチの輪へ入り、新たなエッセンスを注入しているようだ。
最前列の右PRに入る細木は、「今年1年、積み上げたものを正確に8人でやりきりました」。事前の分析を踏まえ、この日は「1本目」が大事だと思った。
「早大さんの映像はたくさん見てきましたが、全ての相手に押し勝っている。なので、最初のスクラムで必ずプッシュしようと試合前から話していた」
果たしてその通りになった。先発FWの総体重で45キロを上回る力感を、組み合う前から活かした。
対する早大の大田尾竜彦監督は、「きょうはダイレクトフッキング(スクラムの足元へ転がる前のボールをすぐに後ろへかき出す技術)という変化球よりも、ストレートで勝負した。やられはしましたが、きょうの(先発の)8人は自信を持って送り出していました」と現状を相対化している。
ただし細木の対面で組んだ早大の左PR、小林賢太は、当事者として反省しきりだった。体重差を跳ね返すためのシステムを、首尾よく機能させられなかった。
「帝京大の重いパックに対して、自分たちの間合いで組めなかったのが改善点です。きょうの試合では(まず自分たちの塊を割らないよう)8人の密度を意識して臨んだのですが、帝京大からプレッシャーを受けて自分たちのセットアップ(組む前の形)ができない展開になってしまい…。組む前のところでのHOの間合いの部分(先頭中央の選手同士のつばぜり合い)で、自分たちが後手に回ってしまった。あとはレフリーのコール(合図)を受けるなかで自分たちが(相手と)正対しきれず、自分たちの強い形になりきれないまま、帝京大が強い姿勢を取るなかで組んでしまった」
細木は続ける。
「ヒットして、足を前に運べた。たぶん、8人とも、ヒットした瞬間に自信を持って押し込めた。そしてまたまた次のスクラムへ…と、試合を通して自分たちのスクラムを組み込んでいけたかなと思います」
神奈川の桐蔭学園高時代から、強靭さで際立ってきた。門を叩いた帝京大は2017年度まで大学選手権9連覇という強豪も、自身は入学以来、頂点に立っていない。
思うに任せぬ季節を経て、いまは主将として働く。
「僕自身が日本一に向けて行動、発言をきちんとしていくだけではなく、チーム全体をどう進むべき方向へ進むよう促していくか(を意識)。皆の顔色、様子を見ながら引っ張っていっている状態です」
早大との大一番に向けても、「メンバー全員がどれだけゲームと同じような強度、意識で練習できるかを見つめてやってきました」。20日には東京・秩父宮ラグビー場で、明大と全勝対決を実施。あるべき緊張感を保ちたい。