「ラグビーは一生のともだち」。冨田真紀子(元日本代表)、フランスへ
チャレンジと自由が好きだ。冨田真紀子がフランスへ旅立つ。
9月10日、現在所属するアザレア・セブンが同選手の留学を発表した。
フランス南西部のポー(Pau)近郊にある女子クラブ『LONS RUGBY FÉMININ BÉARN PYRÉNÉES』(以下、ロンス)でプレーするため、9月13日に離日する。
同クラブは女子1部リーグのエリート1に所属しており、過去3度優勝している。
冨田は2016年のリオ五輪(セブンズ)、翌年の女子ワールドカップ(15人制)にも出場した。
セブンズではFW、15人制ではCTBでプレーし、ロンスでもミッドフィールドでプレーすることになりそうだ。
現在、サクラフィフティーンの候補選手たちが英・プレミアシップで活躍している。その姿に「みんな凄い。刺激をもらっています」と話す。
「私は、自信はないですね。フランスはみんな大きそうだし、レベルも高そう。言葉の問題もある」
昨秋からフランス語の勉強をしてきたが、「まだ話せないし、聞くのも、だいたい分かると思っていたら、まったく違う内容だったり、という感じです」と言う。
それでも、「不安もあるけど、楽しみの方が全然大きい」と笑い飛ばす。そこに、この人の強みがある。
他の選手たちと違う場所へ向かう理由はふたつある。
ひとつは、これまでのキャリアの中で、フランスが心に残るチームだからだ。
セブンズのコアチーム昇格大会だった。ステージを上げられそうなところで負けた。
15人制ワールドカップでは初戦で対戦し、(ハイタックルと判定され)レッドカードを受けたこともある。
「NZやオーストラリアに負けると、強かったあ、で終わることが多かった。だけどフランスには勝てそうで勝てなかったり、記憶に残ることが多い。ターニングポイントとなる試合をしてきた相手です」
うまくいかないときに、フランス選手と交換したウエアを着て気持ちを奮い立たせたこともある。
そんな国で自分を磨きたい。
高校、大学時に、オーストラリア、スコットランドへの留学経験がある。だから、英語圏以外に行きたかったのも理由のひとつだ。
「あとに続く人たちの選択肢も増やせたら」
活躍の場が広がれば、女子ラグビーの価値向上にもつながるだろう。
ロンスにはトランスジェンダーの選手がいる。多様性を認める文化の中で生活し、プレーヤーとしてだけでなく、人間としての引き出しも増やしたい。
ポー大学に通い、学ぶ予定もある。
30歳。チャレンジし続ける人だ。
日本からの挑戦者が多いプレミアシップに行った方が、代表セレクターの目にも止まりやすいだろう。
国内シーンであれば、すでに実績のある、強豪クラブに在籍する方が有利かもしれない。
しかし、自分の価値観を大切に決断した。
これまでもそう生きてきた。
2017年、創設したての山口のクラブ、ながとブルーエンジェルスに活動拠点を移した。代表に選ばれ続けるなら、実績のあるクラブに所属した方が有利なのに。
2021年からは、まだよちよち歩きのアザレア・セブンに移った。
代表活動を通して感じたことがある。リオ五輪までの数年間、文字通り、身も心も代表活動に捧げた。合宿の日数は年間200日をゆうに超えていた。
しかし、思ったような結果は残せなかった。
「それまでの数年間を自分で否定してしまう、ネガティブな感覚になったこともあります」
敷かれたレールの上を走ったけれど、目的地にはたどり着けなかった。
自分で決めた道を歩んだ末の結果だったらどうだろう。
後者の方が楽しいかな。
限られた空間で、特別なプログラムで鍛える方が効率的に強くなれるだろう。リオを目指した日々は、そうだった。悔いはない。
でも、その枠の外でのチャレンジは、もっとワクワクしそうだ。
そんな気がしたから飛び出た。思うように生きた。
「代表がすべてだった時代がありました。そういう時間を経験して、クラブチームなど、代表以外に足跡を残せたらいいな、と。それを評価され、代表に選ばれる。そういうのが理想だと思い、山口(ながと)にも行きました。自分でアンテナ貼りながら、自分で作っていく人生がおもしろい」
ながとブルーエンジェルスに在籍した3年は充実していた。
クラブが歴史を積み上げる過程をともに歩み、短期間で結果を出す。チームは太陽生命ウィメンズセブンズ2019の年間女王となった。
ラグビーに没頭しながらも、地元・長門の人たちと触れ合い、魚市場の仲卸の仕事なども経験。
人生が豊かになった。
そんな居心地のよい場所を離れたのは、そこで成し遂げたかったことをやり切れたと感じたからだ。
静岡でもまた、クラブの歴史を一緒に作りたいと思った。
「アザレアでは、エコパというホームを持っている素晴らしさを知りました。(小池善行)ヘッドコーチに、これまで言われたことのないアドバイスも受けて成長もできた」
フランスで、もっと大きくなった自分と出会いたい。
その結果を評価され、ふたたび代表チームに選出されたら幸せだ。
そうなれば、同じようにチャレンジしたい、と考える後輩たちも出てくるだろう。女子ラグビーの新たなカルチャーと世界観がそこに生まれる。
7月、女子15人制日本代表候補の菅平合宿に参加した。
来年10月にNZで開催されるワールドカップ(女子)を目指すスコッドのひとりと見てもらえている。自分も出たい。
どこにいようが、その気持ちは失わない。
その気持ちは、レスリー・マッケンジー女子日本代表ヘッドコーチには伝えている。
フランスに行ってもコンタクトをとるつもりだ。自分のプレー映像を見てもらい、評価してもらえたら、と思っている。
フランスのリーグは、9月末から来年の5月まで続く。
女子カナダ代表選手と部屋をシェアする生活も楽しみだ。
「ラグビーはともだち。一生つづけたい。フランスでの生活が、どんなふうに人生の一部になるかな」
まだ見ぬ場所は、未踏の領域へすすむ入り口。
だから冒険は楽しい。