帝京大の高本幹也は「全体を見る」。正司令塔争いで「コントロール」を意識
相手は的を絞りづらいだろう。
帝京大ラグビー部3年の高本幹也はよく、目を向けているのとは逆の方向へ鋭いキックを放つ。その視線につられて前がかりになった後衛陣の、さらに後ろへと弾道を描く。タッチラインの手前でバウンドさせる。陣地を得る。
8月16日、夏合宿先のサニアパーク菅平であった慶大との練習試合でも、左を見ながら右へ蹴った。持てる技術の効果を高めるための工夫が垣間見えるようだが、本人は「特にそういったことではないです」。司令塔としての習慣が、おのずと件のプレーにつながっているのだという。
「ポジション柄、全体を見るようにはしています。普段の練習で積み重ねてきたものを、試合で出している」
身長171センチ、体重80キロと一線級の群れではやや小柄だが、身体を張る意欲、何より視野の広さで評価される。
深い位置から駆け上がって、防御を引き付けながらパスを放る。連続攻撃中に後ろへ指示を飛ばしつつ、前方の穴を探る…。表面的な「テクニック」におぼれず、適切な情報の収集と処理で局面を打破する。
最後の冬に高校日本一となった大阪桐蔭高時代は、おもにチャンスメーカーのCTBを担った。ただし2017年度まで大学選手権9連覇の帝京大では、ゲームメーカーのSOとして才能を伸ばす。このチームへ入って他の位置からSOへ転じた点は、2019年ワールドカップ日本代表の松田力也と重なる。
3季ぶりの頂点を目指した2020年度も、大一番では当時2年の高本が背番号10をつけた。ライバルチームのコーチからはこう恐れられた。
「彼はいつも表情が変わらない。冷静にプレーしている印象です」
帝京大は選手層が厚い。熾烈な競争は今夏の慶大戦でも見られ、高本は「40分×3本」のうち2本目を任されていた。主力の多い1本目では1年生の小村真也がSOに入っていて、高本はこう言葉を選ぶ。
「あまり慢心しすぎてもダメなので、実力不足と受け止め、頑張っています」
いわば、さらに力をつけるべく試練を与えられた格好か。
厳しい決定を受け、控えグループにあっては技術を磨きながら「チームをコントロールしないといけない立場。戦術を自分で考えて皆に発信し、ちゃんと(遂行)してもらう(よう意識した)」。チームがすべきことを、自分だけでなく周りにも理解させるよう努めた。慶大戦では1本目のスコアを5-19としながら、2本目までの総計では43-26と逆転。高本の退いていた3本目を終えれば、57-31とさらに点差をつけていた。
キャンプ中の練習試合のメンバーは非公開も、慶大戦後の高本の台頭は各所から伝わる。
突進力とみずみずしさで鳴らす帝京大の右PR、細木康太郎主将はこう補足する。
「高本は監督、コーチ陣から期待されていて、高いスタンダードを求められている。その分、難しい(立場にいる)と思うんですよ。それでも、練習からリーダーシップを発揮し、努力している。これは彼自身の成長にも、チームのレベルアップにもつながることだと思っています」
加盟先の関東大学対抗戦Aは、9月12日に開幕する。帝京大は同日、埼玉・熊谷ラグビー場で筑波大とぶつかる。
新手の感染症が流行り始めてから2度目のシーズンが始まる。めったに顔つきを変えぬ高本は、置かれた立場を淡々と説く。
「まず、コロナにならないということをチームで意識して、ラグビーは(対抗戦で)全勝して、いい形で大学選手権に向かっていきたい。個人としては、スキルの部分で他の人より劣っていると思うので(実戦で)使えるスキルを磨いていきたいです」
圧力下で発揮できる「スキル」を磨けば磨くほど、持ち前の頭脳と感性が活きる。