海外 2021.07.02

もうひとつの、エディンバラでのライオンズと日本代表

[ 竹鼻智 ]
もうひとつの、エディンバラでのライオンズと日本代表
いつも元気なロンドン・ジャパニーズRFC(撮影/Taka Wu)



 6月26日に、マレーフィールドでブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズと日本代表の世紀の一戦がおこなわれる前のことだ。
 ロイヤル・ハイスクールというエディンバラのとある高校のグランドで、タッチラグビー大会が行われた。

 英国の草ラグビー界で、日本を代表し続けるロンドン・ジャパニーズRFC。現在の選手たちの平均年齢は20代後半で、メンバーの国籍の日英欧のバランスもうまくまとまっている。
 当日は、30人を超えるメンバーでエディンバラに乗り込んだ。

 主催者はライノ・ラグビーグループCEOのレジ・クラーク氏だった。北イングランドのニューキャッスルの労働者階級の家庭で生まれ育ったクラーク氏は、その後オックスフォード大学に進み、ブルーの称号も獲得した人だ。
 アマチュア・ラグビーを心から愛するクラーク氏は、故・奥克彦氏との友情をいつまでも保つため、常時であばれロンドンで、年末に奥記念杯という大会を開催している。

 ただ、この日はクラーク氏の見込みが外れた。イングランド、アイルランド、ウエールズ、スコットランドのアマチュアラガーをロイヤルハイスクールに集める予定だったが、人数が足りなかったのだ。
 英国でのタッチラグビー大会の規定として、基本的に6対6でやるというルールがある。だからライオンズの4か国で最低でも合計24人が必要だったが、足りなかった。

 そこで目をつけられたのが、30人を超える部隊でエディンバラにやってきたロンドン・ジャパニーズRFCだった。メンバーの中の、アイルランド、ウエールズ、スコットランドにルーツのある選手たちが他チームへ移籍することになった。
 結果、残念なことに、ロンドン・ジャパニーズは戦力を失う。ウエールズで生まれ育った日本人の兄弟は、タッチラグビーの名手といえる高校生と大学生の兄弟。この2人をウエールズチームに提供することになり戦力低下。
 それにとどまらず、アイルランド系、スコットランド系のメンバーもそれぞれのチームに提供し続け、試合には負けてしまった。

 それでも見せ場は作った。
 この日がロンドンでの最後の試合となった、池上真介氏(前キャプテン)はリコーの駐在員で、元ブラックラムズの選手。日本人メンバーの間では「池上名人」、英国人メンバーの間では「Master Shinsuke」と呼ばれた漢(おとこ)は、この日も暴れた。
 グラウンドで幾度となくトライラインに飛び込んでみせた。

 優勝チームは、オックスフォード大とケンブリッジ大のラグビー部にルーツを持つ、キュー・オケージョナルRFCだった。手加減してタッチラグビーをプレーするにしても、セミプロレベルの選手を擁する同チームだ。
 いつものように草ラグビーのトロフィーを勝ち取っていった。

 試合後、選手たちはマレーフィールドに世紀の一戦を観戦しにいった。
 また、試合後は街の中心のパブに集合。1テーブル6人ルールを守り、ビールをたしなんだ。
 午後10時にパブと酒屋が閉店する規制が敷かれているスコットランド地方。その時間になるとパブだけなく、町中のレストランが閉店を迎えた。人々は家路に急ごうとしていた。

 その傍らでは、ロンドン・ジャパニーズRFCから8人、キュー・オケージョナルRFCから8人が出て、路上でのスクラムが組まれた。路上の人々もスクラムに注目した。結果は引き分け。
 もうひとつのエディンバラでの、ライオンズと日本代表。試合が終われば、皆が友達となった。

「Master Shinsuke」こと池上真介氏。(撮影/Taka Wu)

PICK UP