仏・女子1部リーグでプレーするトランスジェンダー選手。「ラグビーの力である多様性をジェンダーにも広げよう」
2010年に、まず仲の良かった従姉妹と女友達に相談、翌年正月に「心の中では、私は女なの」と両親に告白した。保守的な家庭には衝撃が走った。父親は「精神科医に行って治療してもらおう」と言った。だが精神科医から「これは病気ではありません」と説明を受け、それからは家族もアレクシアの生き方を受け入れてくれるようになった。
2012年からホルモン療法を受け、2014年に性転換手術を受けた。「やっと自分になれたと感じた。自分に自信が持てるようになった」。国民IDカードを新しい性別で申請した。2016年2月12日、待つこと18か月、ついにIDカードを取得し、法律上も女性として認められた。
新しい人生が始まったアレクシアに、「モン・ド・マルサンに女子ラグビークラブがあるから、そこでまたラグビーを始めれば」と言ってくれる人がいた。「ラグビーは過去のものと思って諦めていたけど、再び火がついた」。すぐに問い合わせた。「新しいチームメイトには、自分の過去を知っておいてもらわなければと思っていた。するとキャプテンのジュリー・ラファルグが『あなたがこのクラブのジュニアチームで活躍していたこと、みんな知っているわ。全員あなたの味方よ』と言ってくれた」
2年後には、1部リーグのロンスから声がかかった。「1部リーグでプレーできることになるなんて、思ってもいなかった。しかも33歳で!」と喜ぶ。「彼女はレベルが高い選手で、グラウンドでのファイトする姿勢、コミットメントの高さに目をつけていた」とロンスのフランソワ・ロンバール会長は話す。
しかし2020年にワールドラグビーから「国際レベルの女子ラグビーへのトランスジェンダー女性の選手の参加を推奨しない」という声明が発表された。国内レベルの試合にも適用されるのではと不安になったアレクシアは、フランス協会にメールで問い合わせた。するとベルナール・ラポルト会長から「これは国際試合に限られたルールであり、国内レベルの試合には影響がない。今まで通りラグビーを続けられる」と返信が来た。さらに「ワールドラグビーの決定は差別的で独断的であると考え、フランス協会は反対の構えだ」と協会としての方針を示したという。
ワールドラグビーが問題視している体格、力、スピードにおける男女の差に関して、身長1㍍78㌢のアレクシアは、「私より大きな選手もいるし、パワーやスピードもホルモン療法や手術をして以前の半分になっている。いま生きているのは、男子チームでプレーして身についた経験だけ」と言う。
アレクシアと、最初は戸惑いながらではあるが彼女を支えてきた家族、そして彼女を両手を広げて受け入れたチームメイトの姿は、変わりつつある社会での新しいラグビーのあり方のヒントになるのではないか。