クボタ奮闘もサントリーが献身と賢さで勝利。「つながってディフェンスできた」
両軍ともベンチ外メンバーに加え、親会社の上席をもメインスタンドへ招いた。
5月16日、国内トップリーグはプレーオフ準決勝の第2試合があり、6度目の優勝を目指すサントリーと初の4強入りに沸くクボタが大阪の東大阪市花園ラグビー場で相まみえた。
果たして、わずか1トライのサントリーが26-9で勝利。敗れたフラン・ルディケ ヘッドコーチが端的に総括した。
「ボールをキープできなかった。前半はいいスタートが切れましたが、ブレイクダウン(接点)で反則が多く、頑張りが実らなかった。サントリーはラグビーよりもキックに集中し、それが勝ちに結びついた。そしてスコアボードでプレッシャーをかけられ、負けた。戦術的にうまいことやられていました」
最初はクボタが持ち味を示す。
前半8分、自陣からのオープン攻撃からペナルティキックを得て3-0と先制。それを前後して2分、15分頃には、自陣ゴール前での自軍ボールスクラムで反則を誘った。そのエンジン役となったLOのルアン・ボタは、16分、自陣ゴールラインを背にして相手のモールへ腕と肩を差し込む。塊をその場で止める。
ペナルティゴール、ドロップゴールで3点を刻み合う序盤戦。クボタが大型FWの強みを示すかたわら、サントリーも首尾よくボディーブローを打ち込んでいた。両角へのキックだ。
決定打のひとつは、9-6と3点リードで迎えた33分にあった。
自陣で相手のミスボールを拾うや右大外を破り、パスを折り返すとSOのボーデン・バレットが左端へ高く蹴り上げる。球の行き先へは複数名で網を張り、敵陣10メートル線付近左中間で右PRの垣永真之介が攻守逆転。まもなく右へパスをつなぎ、端に立つFBの尾崎晟也が低い弾道を放つ。直後の圧力により、自軍ラインアウトを得る。
プレー再開。すぐに球を出し、左大外へのつなぎからWTBの江見翔太が鋭いステップでフィニッシュ。両チーム通じて唯一となるトライで、14-6とリードを広げた。
クボタは今季を通じ、鋭い出足の防御ラインを唱えてきた。田邉淳アシスタントコーチの弁。
「敵に時間とスペースを与えない」
裏を返せば、飛び出すタックラーの裏側が狙い目になりそうだった。サントリーの中村亮土主将はこうだ。
「クボタさんはいいディフェンスを持つチーム。簡単にはゲイン(突破)できないと思ったので、キックを蹴ってアンストラクチャー(混とん状態)を作って、自分たちのゲームに持ち込んでいく…と」
4月にあった同カードでも、サントリーはSOのボーデン・バレットの鋭いキックで得点を招いていた。この日はバレットに加え、SHの流大、さらにはインサイドCTBである中村の足技も冴えた。
クボタは後方をカバーする役目のWTB、FBに、走力やフィジカリティで評価される選手を並べていた。防御システムの特徴と相まってか、じわりと点差が開く過程で、何度も背後を突かれた。
「裏の選手(WTB、FB)だけの責任ではない。思ったよりも相手がボールを手離してプレッシャーをかけてきたので、それへの対応は少し遅れたかもしれないです」
こう現実を受け止めたのは、主将就任5季目の立川理道である。普段のインサイドCTBと異なるSOの位置へ入り、サントリーの蹴った箇所へのカバーでも汗をかいていた。
「最終的には、うまく調整できたと思っています」
勝者がキックとともに際立たせたのは、スマートかつ勤勉な守りである。
両軍通じて唯一のトライがあった直後には、自陣深い位置で中村亮土が魅する。まずは日本代表の同僚でもある相手FLのピーター“ラピース”・ラブスカフニにタックルを打ち込むや、淡々と起き上がってさらに右側へ回る。
次の瞬間には、味方の流が鋭い出足でCTBのテアウパ・シオネを倒す。その手元へ中村がジャッカルを繰り出し、クボタの反則を誘った。
「僕の役割は(防御ラインの)外側で内側をコントロールしてディフェンスすること。穴を見てピンチの箇所を埋めていくことも、(自身が)できるところ。そういう判断をしながらいいディフェンスができた。僕だけじゃなく、他のメンバーとつながってディフェンスできたのがよかった」
後半開始早々には、自軍キックオフから攻め上がるクボタに対峙。やがてペナルティキックを得た。日本代表で中村に追われる立場だったことのある立川は、湿度の高いグラウンドでのプレー選択についてこう言い残した。
「基本的にはボールを保持してアタックしたいと思っていました。そのなかでも、ボールが(天候で)滑りやすくなったので(蹴るかつなぐかの)バランスを考えつつ、ゲームをコントロールしたかった。最終的には、スコアボード上で追いかける点差になったので、ボールを保持していきました」
観客を呼べないスタンドにあって、クボタのメンバー外選手は今季スタッフがファンに配ってきたオレンジのベースボールシャツを着用。空席には各自の所縁のジャージィを並べた。
かたやサントリーでも、応援部員はお揃いの黄色いTシャツをまとった。戦前には、ロッカーからスタンドのコーチ席へ上がるミルトン・ヘイグ監督がその控え組のもとへ立ち寄る。一人ひとりと拳を突き合わせ、キックオフを迎えた。
老舗の強豪が試合巧者ぶりを発揮した80分間は、特殊な空間における組織力の発表会でもあった。