国内 2021.05.06

好調の秘訣はライバルの存在にあらず。クボタの井上大介、モデルチェンジの成果示す。

[ 向 風見也 ]
好調の秘訣はライバルの存在にあらず。クボタの井上大介、モデルチェンジの成果示す。
スクラムからボールを出すクボタのSH井上大介。4月3日のサントリー戦(撮影:松本かおり)


 話は単純ではなかった。

 今季の国内ラグビートップリーグにあって年輪を感じさせるのが、クボタスピアーズの井上大介だ。

 日本代表2キャップ(代表戦出場数)を誇る31歳は、今季の国内トップリーグでプレーオフ2回戦までの全8試合に先発出場中。攻めの起点のSHに入り、緩急をつけて球をさばく。防御の裏へは多彩なキックを放ち、守っては接点から球を引き抜く。

「エリアと人を考え、ゲーム全体をコントロールできたらと思っています。いまはどのエリアにいるのか、いまがチャンスなのか、ピンチなのかを判断する。また、長く(クボタで)プレーしている分(味方)選手の特徴はつかんでいるので、『こういう時は彼に渡そう』といったことも考える」

 奈良県出身。主将の立川理道とは、自身が小1で通い始めたやまのべラグビー教室時代からのチームメイトだ。天理中、天理高を経て入った天理大では、クラブ史上初の全国準優勝を経験した。クボタ入部5年目の2016年には、国際リーグのスーパーラグビーに挑むサンウルブズへ加入。同年には日本代表デビューも果たした。

 今季充実の背景に本人が挙げるのは、プレースタイルの変化だ。チームでは2019年、元サンウルブズコーチで「スラッシー」こと田邉淳アシスタントコーチが就任。攻撃的な姿勢と仕組みをインストールするかたわら、井上には動きの変化を求めたようだ。

 自ら解説する。

「いままでならちょっと仕掛けて放ったりしていたのを、下から放れと。キックも、それまでスペースがあったら蹴る感じだったのを、『チェイスがいない時は蹴るな』と」

 かねて接点に駆け込んでは球を持ち出し、その周辺へ仕掛けながらパスを回していたところ、接点へ潜り込むような姿勢になるようモデルチェンジ。相手の背後を突くキックも、弾道を追う味方と呼吸を合わせるよう意識し始めた。

 それから約2年。課されたスタイルを身体化させ、今季のハイパフォーマンスにつなげている。

「いまは最初と比べてスラッシーさんの言っていることの意味がわかってきて、(新たな形が)やりにくいものから、やりやすいものになってきた。それがちょうど、今年だった」

 この4月から、同じ天理大出身のSHでジュニア・ジャパン選出歴のある藤原忍が入った。古今東西、期待の星と長年のレギュラー戦士との定位置争いは注目の的となる。井上自身も、記者団の問いに答える形で藤原に刺激を受けている旨を話したこともある。

 もっとも、いまの動きを本当に支えているのは数年来の努力である。そう強調する意味合いで、井上はこうも笑うのだ。

「今年、忍が入ったというだけでよくなったら、苦労はしないでしょ。(ライバルの存在は)特に意識しないです。誰が来ても、スタメンが獲りたいだけなので」

 地道に畑を耕して花を咲かせようとするのは、クラブも同じだ。

 今季の試合会場では、スタッフがチームカラーであるオレンジ色のベースボールシャツを用意。当日の入場券を持つ全てのファンに配ってきたため、時間が経つほどにスタンドが明るく染まった。

 現場はフラン・ルディケ体制5シーズン目を迎えており、4月中旬までのレギュラーシーズンで開幕5連勝。クラブ史上初の4強以上達成に迫っている。

 4月以降のリーグ戦終盤期は、過去優勝5回のサントリー、4強入り8回のトヨタ自動車にそれぞれ26-33、24-25と惜敗した。「負けた瞬間はここ最近にないくらいテンションが下がったんですけど……」と井上。ペナルティキック取得後のプレー選択をはじめとした反省点を抽出し、負けたら終わりのプレーオフトーナメントへ突入している。

「成長途中という感じ。この後のスピアーズのことを考えたらほんまにいい勉強になったなと」

 ノックアウトステージには2回戦から参加し、4月24日には東京・江戸川区陸上競技場で2018年度まで5季連続4強以上のヤマハ発動機を46-12で下した。5月9日は静岡・エコパスタアジアムで、2018年度王者の神戸製鋼との準々決勝に挑む。

 利発さと向こう気の強さを兼備した背番号9は、難所も堂々と楽しむだろう。

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