国内 2021.04.09

「0-97」から約1年。NTTドコモの佐藤大朗、神戸製鋼戦で「進化」示したい。

[ 向 風見也 ]
「0-97」から約1年。NTTドコモの佐藤大朗、神戸製鋼戦で「進化」示したい。
オンライン取材に応じるNTTドコモレッドハリケーンズの佐藤大朗


 忌まわしき記憶だ。「0-97」。2020年2月2日の国内トップリーグ第4節で、NTTドコモは2018年度王者の神戸製鋼に大敗した。

「去年は何もできず、なされるがままのサンドバック状態という感じでした」
 
 31歳になったばかりの佐藤大朗は、あの日、NTTドコモのFLとしてそのゲームに出た。

 登録メンバー23名のうち、15人制の代表戦経験者はNTTドコモが1名だったのに対して神戸製鋼は13名。何より相手は元ニュージーランド代表アシスタントコーチのウェイン・スミス総監督のもと、親会社の営む製鉄業への造詣を深めつつパス回しを磨いていた。

 一方、あの日の兵庫・神戸総合運動公園ユニバー記念競技場で佐藤が抱いたのは、NTTドコモの「組織としてのディフェンス」が「まったく機能していない」という皮膚感覚だった。

「個人的にはめちゃめちゃタックル決まっていたんですけど、それに続く二の矢、三の矢がないというか。隣の選手とのつながりがなく、それぞれが好き勝手にディフェンスして、アタック力のある神戸製鋼さんがその隙間をうまく突いた感じです。試合中、修正しようと何回も試みましたが、全然できずに最後まで行ってしまいました」

 あれから1年強。クラブは変化した。出身の南アフリカで3度の最優秀コーチ賞に輝いたヨハン・アッカーマン ヘッドコーチ(HC)が着任。昨秋の合流以来、高強度のセッションを常態化させる。個々のコンディション維持には目を配りながらも、走り込みと実戦練習を交互におこなう。
 
 新外国人も際立つ。まずはアッカーマンが昨年まで指揮したイングランドのグロスターから、3名ものメンバーが来日。いずれも外国人枠や戦術の影響でメンバーから漏れても、控え組用の厳しいトレーニングに真摯に向き合う。CTBの金勇輝はこうも証言する。

「それに、その選手たちのラグビー偏差値が高い。試合のレビューをしても以前は『サインを遂行できたか』というフェーズだったのですが、いまは『そのサインのなかで、それぞれがどこまで役割を遂行できているか。あの選手は相手の内肩を、こっちの選手は相手の外肩を狙っているか』という目線になっています」

 2月20日に新しいトップリーグが始まると、ニュージーランド代表69キャップのSH、TJ・ペレナラが躍動して6戦4勝。2020年は第6節までを1勝5敗としてシーズン不成立を受け入れていただけに、進化を結果につなげていると言える。

 今年4月3日の第6節では、前年度に7-82と屈したヤマハに21-33と最後まで競り合った(大阪・万博記念競技場)。前半は自陣から球を回すなかでミスや反則を犯して7-26とされたものの、後半はプランを変えないまま14-7と盛り返したのだ。アッカーマンHCは手ごたえをつかむ。

「分析上、ヤマハは一番長くボールを持つチームだとわかっていました。我々はそれをさせないためにも、こちらから(球を保持して)仕掛けようとしました。振り返っても、プランは正しかった。チャンスメイクはできていた」

 10日には大阪・東大阪市花園ラグビー場で、あの神戸製鋼と再戦する。

 5日には大阪の本拠地で、週末の試合に向けた最初の練習に取り組む。佐藤はペレナラら主力候補とともに、エリアごとの攻撃の連携を確かめる。

 それに先立ち、今季ここまで出番のなかった金勇輝は自身と似た立場の同僚へ伝えた。

「俺たちは俺たちで、やるべきことをやろう」

 神戸製鋼とは公式戦の翌日に控え組同士のトレーニングマッチを組んでいたが、先方に故障者が出たため実現不可となった模様。それでも、ネガティブな雰囲気をグラウンドへ持ち込むのを金勇輝は避けたかった。

 レギュラー入りを狙う選手が現在のレギュラーを支える習慣は、いまのNTTドコモの特徴のひとつなのだろう。ちなみに法大から2015年に加入の金勇輝も、昨季の神戸製鋼戦に途中出場している。

 アッカーマンHCは述べる。

「最初と比べて、プレッシャーのかかったなかでの選手の反応が(いい方向へ)変わってきています。判断ミスでトライを取り切れないことがあるなど、課題は山積み。(挙げた白星のなかでも)もっと楽に勝てた試合もあったと思います。ただ、いまは学んでいる最中です。ムードはかなりよくなっている。ジャージィに誇りを持つこと、信頼を勝ち取るには普段から正しく取り組まなければいけないことを文化として築きたい。時間はかかりますが、私たちが何を価値とするかを明確にして、人にリスペクトの気持ちを持つなど当たり前のことをして、文化を根付かせたい。私はミスをとやかく言わない。どれだけ必死に取り組んでいるのかを見ます」

 東京の公立校である国立高、慶大を経てきた佐藤は、自ら売り込んで加わったNTTドコモでは主将を経験した。

 過去4年間は、右足首の軟骨損傷と手術後の痛みに悩まされてきた。ただし「トレーナーさんのおかげでもあるんですが、去年ぐらいからフルで練習できるようになってきていた」。現体制の求めるハードトレーニングに挑んできた結果、今季はここまで全試合に登録され3試合で先発する。

「きつい練習に参加して、乗り越え、いまここにいるという自信はあります」

 今度の神戸製鋼戦では、「進化」の証明に挑む。

「今年は、戦えるところまではこられているのかなと。ファンの人たちもたぶん、去年の悪夢を覚えているでしょう。そこ(次戦)で自分たちのやってきたことを見せられて、初めて『進化したな』と言ってもらえるんじゃないかと。選手、スタッフの頭にこびりついているであろう去年の大敗を払しょくし、トーナメント(4月中旬からのプレーオフ)に進めたらと思います」

 決戦は12時キックオフ。佐藤と金勇輝はそれぞれ7番、23番をつける。


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