国内 2021.04.05

神戸製鋼とパナソニックの全勝対決はドロー。「13-13」を支えた働き。

[ 向 風見也 ]
神戸製鋼とパナソニックの全勝対決はドロー。「13-13」を支えた働き。
スクラムで押し合う神戸製鋼(赤)とパナソニック(撮影:早浪章弘)


 ホワイトカンファレンスで日本一に近そうな優勝候補同士の全勝対決は、13-13と同点で終わる。

「ハイライトシーンはなかったかもしれませんが、難しいコンディションのなか、両チームが競った試合でした」
 
 元オーストラリア代表指揮官でパナソニックのロビー・ディーンズ監督がこう言えば、ニュージーランド代表50キャップ(代表戦出場数)で神戸製鋼のアーロン・クルーデンがかようにたとえた。

「腕相撲みたいな試合。天候が流れにインパクトを与えた。ラインアウト、スクラム、陣地の取り合いが多い試合になった。スコアを見て評価すると両チームにチャンスがあり、両チームが限られたチャンスをものにした試合でした」
 
 国内トップリーグ第6節のあった4月4日。兵庫・神戸総合運動公園ユニバー記念競技場は雨に降られた。両軍とも終始、球が手につかない。陣地獲得のためのロングキックはいくつか直接グラウンドの外へ出て、再獲得のために放たれたハイパントが逆側の懐へ弾んだこともあった。思い通りに事を運ぶ難しさを、再認識させられていたような。

 空中戦のラインアウトでも、呼吸の不一致や投球ミスが重なる。後半12分からパナソニックのHOへ入った日本代表66キャップ、堀江翔太はこうだ。

「お互いにプレッシャーがかかって、急遽、サインを作るとかして、(投球と捕球のタイミングが)合わない部分もあった。今後は『そういうことがあったら、こうする』という、予測、整理できるようにはしたいです」

 もうひとつの攻防の起点、スクラムでは、最前列に代表経験者の多いパナソニックが優勢を保つ。前半16分の1本では右PR平野翔平がせり上がり、神戸製鋼の反則を誘う。直後のペナルティゴール成功で3-3と同点にする。

 続く19分頃にもハーフ線付近でのスクラムでペナルティキックを得て、7分後には敵陣ゴール前右中間で左PRの稲垣啓太の側から押し勝つ。6-3。

 ハーフタイム明けには神戸製鋼が元日本代表の山下裕史を前線の右PRに投入。パナソニックは後半8分にスクラムで笛を吹かれてしまう。ただし、その流れを放ってはおかない。

 11分、敵陣10メートル線左中間の1本を安定させる。平野が耐える。SHの内田啓介がその脇を一気に駆け抜けるなどし、約7分前までの失点で与えたリードを帳消しにした。13-13。

 最前列中央のHOで先発したのは坂手淳史。日本代表として堀江とともにワールドカップ日本大会に出たチームの主将は、序盤からのスクラムでの感触をこう語る。

「前半は(最初の)ヒットのところで前に出られていた。1、3番(両PR)、バックロー(FWの後方)とそこでプレッシャーをかけていこうとしゃべりながら組みました。後半は山下さんが入ったことで(相手の)うまさが出た。そこで同じことを繰り返すと、前半と逆(の展開)になると思った。そうならないよう、もう一度、1、3番とゲームのなかで(修正点を)確認できました。各選手に癖があるなか、あの1本で、ペナルティを取られた。その時に(自軍の)1、3番と『どう?』『こうしようか』とコミュニケーションを取った。(さまざまな組み手に対処する)策はいろいろとあるので」

 パナソニックの最前列勢は防御でも際立った。

 坂手、平野が迫る相手をタックルで押し返したうえ、日本代表34キャップの稲垣は3-3と競り合っていた前半16分頃、自陣中盤で相手ランナーを正面から押し返せるよう素早く位置へ着く。タックル。向こうの援護にジャージィをつかまれながらも、振りほどいて次の職場を探す。以後も神戸製鋼の猛攻は続くも、接点の援護が薄くなったところで内田のジャッカルを後ろから支える。一時的にとはいえ攻撃権をもぎ取る。
 
 驚かされるのは、後半12分から登場した堀江ら最前列のリザーブ組がさらなる仕事量を示したことだ。

 後半16分頃。途中出場していたクルーデンのランから自陣10メートル線付近で守勢に回るなか、左PRのクレイグ・ミラーが飛び出し神戸製鋼の落球を誘う。さかのぼって13分には、自陣22メートル線付近、右PRのヴァル アサエリ愛が再三にわたって外国人走者を押し返している。

 終始接点に圧をかけた堀江は「もっともっとディフェンスでプレッシャーをかけられる部分はあった。パナソニック的には、ディフェンスの場面を増やした方がよかった」。ただし防御でしぶとかったのは、神戸製鋼も同じだった。

 試合終了から約10分前、自陣22メートル線付近左でパナソニックのモールへ神戸製鋼が圧をかける。ニュージーランド代表81キャップを誇るLOのブロディ・レタリックが、身長204センチのサイズを活かす。

 ちなみに、あの時、パナソニックがモールを組んだのは、神戸製鋼の反則時にペナルティゴールを蹴らず攻め込んでいたことと無関係ではない。スコアが6-6だった前半終了前にも、3点追加のチャンスでトライを狙っている。坂手は述懐する。

「ショット(ペナルティゴール)を狙うかどうかは、その時に出ている時のキッカーとコミュニケーションで決めます。前半のところは1本、トライを欲しいなというところでした。場所も外(タッチライン際)だったので、ラインアウトとモールで時間を使って、ペナルティ(の誘発)、またはトライを…と考えました。僕が代わった後のことはグラウンドレベルの判断なので(自身は)わからないですが、狙うべきところ、狙うべきじゃないところを、ゲームを見返して確認したいです」

 ラストワンプレー。万雷の拍手を背に、神戸製鋼は自陣中盤から右へ展開する。WTBの井関信介が前方へ大きく蹴り込んだボールを、パナソニックはそのまま外へ蹴り出す。優勝候補同士の決着は、トップリーグの全チームが進めるプレーオフに持ち越されることとなった。

 神戸製鋼のオープンサイドFLで、この日リーグ戦通算100試合出場達成の橋本大輝は「2009年に入部してから今回が一番、(パナソニックに)勝つ可能性があった感じの試合内容でした。神戸製鋼も年々、強くなっているので」。ウェイン・スミス総監督体制3季目で、選手名鑑の顔ぶれだけでは計れぬ力を実感する。

 かたやパナソニックを率いて過去2回優勝(チームとしては計4回)のディーンズ監督も、「対戦した両チームが高いパフォーマンスを維持すれば、また再戦できるかもしれない」。黒子が粘った80分の向こう側に、花形役者も光り輝くいつかの80分を見据える。


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