フランス女子代表トレムリエール インタビュー。「この10年の世界最高選手」は100%ビオ!
2019年のフランス協会との契約更新時に、7人制から引退して、15人制に集中することにした。7人制代表、15人制代表、そしてクラブチームの3つを同時に続けていくのは簡単ではない。レンヌに在籍していたが、2試合しかこのチームでプレーできなかった年もある。
「パリにいても、心は故郷の農場だった。そんな気持ちでラグビーをしているとケガをする。外の世界を見たくて生まれ育った環境から飛び出した。特に7人制のおかげで自分では行けない国に行き、違う文化に触れることができ、視野も広がった。その上で自分には農場が、自然や動物と触れ合う時間が必要なのだとわかった。自分のキャリアは終わりに近づいている。私がラグビーの後にしようとしていることは肉体労働で健康な体が必要。ラグビー後の人生のことを考えなくちゃいけない。そっちは30年も、40年も続くのだから」
パリから故郷のオーベルニュ地方に帰ったトレムリエールは、クラブチームも古巣のロマニャに復帰した。ロマニャは2016年、TOP14のこの地方の看板チームであるASMクレルモンとパートナー契約を結び、名称をASMロマニャとし、クレルモンのプロチームと同じイエローにブルーのユニフォームになった。平時であれば、ASMクレルモンのホームスタジアムであるスタッド・マルセル・ミシュランで試合をすることもあり、このパートナー契約はクラブに新たなスポンサーをもたらしてくれた。
「うちの家族は熱烈なASM(クレルモン)のサポーターで、試合はテレビで必ず見ているの。マツシマ、とてもいい選手ね。驚くほど巧く対応している。彼はラグビーがしたくて仕方ないのね。プレーから感じる人柄にも好感が持てる。彼のプレー、お手本にさせてもらっているわよ」と、勉強熱心なトレムリエールは、同じFBの松島幸太朗を賞賛する。
現在、フランス女子15人制代表には、彼女のような契約選手が30人を数える。(7人制は2019-2020シーズンで26人)。これは75%の時間を代表選手として活動するという契約で、代表チーム強化のためだ。しかし、ラグビーだけでも多大なエネルギーが求められ。また残りの25%の時間だけで雇用してくれる雇用主もなかなか見つからず、他の職業にも従事しているのは10人ほどというのが実情だ。
フランスの女子ラグビーの人気はこの数年で上昇傾向だ。2020年9月30日の選手登録者数の前年比は、女子が17%増、男子が3.7%増。
「男子のアマチュアラグビーで2シーズン続けて死者が出る事故があり、親が心配してラグビーを避けるようになった。メディアでいいイメージを発信できなければ、ネガティブな反応がある。女子ラグビーはテレビ中継されるようになり、相手に当たりに行くのではなく、相手を交わしてどんどん動くプレースタイルを多くの人に見てもらえ、受け入れられたのだと思う」
トレムリエールには、プレーヤーとしての活動だけでなく、2023年の男子ワールドカップに向けてのプロジェクトもある。フランス2023組織委員会のテーマは、『地産地消とエコロジー』。試合会場周辺で、地方の特産品を有名シェフの考案したレシピで作った料理を提供することを計画しており、彼女はそのアンバサダーになっている。「うちの農場で飼育した牛肉を観戦に来る人たちに味わってもらえれば」。すでに直接消費者に届ける形で販売を始めている。「ビオは高いというイメージがあるから、仲買のマージンをなくすことでコストを抑え、また直接消費者に触れることで、どのように飼育しているか、どんなエサを与えているかなど、私たちの仕事について、食の安全について、もっと伝えていきたい。1人でも多くの人に食べてもらって、違いをわかってもらえれば嬉しい。そのためには、まだまだやることがある」と、ラグビーに劣らない熱さで話す。
取材の間、「(シックスネーションズが)予定通りにできれば」という言葉が何度も繰り返された。「こう思うことにも慣れてしまった」とも。今年9月、10月に予定されていた女子のワールドカップも来年に延期された。彼女はインタビューを「この状況で試合ができるだけでも恵まれている。感謝しなければ」と締めくくった。