国内 2021.03.12

遠慮はもうしない。サントリーの森川由起乙が得た「自信」。

[ 向 風見也 ]
遠慮はもうしない。サントリーの森川由起乙が得た「自信」。
自信を取り戻し、さらなる飛躍を決意するサントリーの森川由起乙(撮影:松本かおり)


 遠慮していないか。

 森川由起乙が流大にそう言われたのは、サントリーに入って3年目以降のことだったか。2人は帝京大の頃からの同期で、4年生だった2014年度は流が主将で森川が副将だった。

「もっと由起乙を出したら? もっと戦った方がいいんじゃない? そういう感じだったと、思うんですけど…」

 社会人2年目だった2016年度。流は当時の沢木敬介監督に主将を任される一方、森川は新人の頃につかんだ定位置を2学年上の石原慎太郎に譲った。

 左PRを本職として運動量、強靭さ、ハンドリングスキルを長所としてきたが、一時、最前列で組むスクラムで苦しんだか。身長180センチ、体重112キロと恵まれた体格の28歳は、当時を振り返る。

「正直、スクラムで悩み過ぎて、得意のフィールドプレー、タックル、ボールキャリーという軸がぶれてきていたんです。全部に自信がなくなり…どこに自分を注いでいるのかわからない部分があって」
 
 トップリーグ3連覇を逃した2018年度の日程をすべて終えると、オフの取り組みを変えた。週に4、5回は早朝にクラブハウスへ出向き、若井正樹S&Cコーチが唱える「ZUU」という全身運動のセッションに参加したのだ。

 社業と両立して心身を鍛えたことで、失いかけていた「自信」を構築した。

「きつい時にどれだけ動けるか。それを身体に染み込ませた。(結果的に)しんどい時でも動けるようになったり、楽な選択をしなくなったり。自分のオフシーズンにずっとやり続け、やり切ったことが自信にもなりました。僕はもともと自分をあまり評価しない感じだったのですが、自信を持とうという思考が芽生えてきました」

 通常練習のあった頃は、課題のスクラムにも直視した。

 元日本代表HOの青木佑輔スクラムコーチとともに、国際リーグのスーパーラグビーの試合や自身が組んだビデオをチェック。理想の形を模索した。

 2019年6月からはカップ戦があった。流や石原、2018年に左PRへ挑んでいたHOの堀越康介が当時の日本代表候補合宿へ呼ばれたこともあり、森川は7、8月の計4試合に先発。青木コーチとの練習で学んだことを、実戦で活かせた。

 2020年のトップリーグも、おこなわれた6試合中4試合にスターターとして出る。好感触をつかめた。早朝の「ZUU」をやり抜いた時と同じように、「自信」を取り戻した。

「自分の映像を見て青木さんに『あ、ここが変わっていない』『ここはどんどん変わってきたね』とワンポイントアドバイスをもらって、去年のカップ戦の時には自分自身でスクラムをつかみ続けてきた。試合に出続けたことでスクラムの経験値も高まりました。(以前は)お互いが崩れた時、相手側に手が上がっていた(レフリーに反則を取られていた)のですが、次第に自分の方に上がるようになった。それがすごく自信になって、自分のスクラムの形ができてきました。まだ完成はしていないですが、個人としてのスクラムの形はできたかなと」

 前向きになった。課題を解消した。確かな手応えをつかんでいたら、魅力的なプレゼントも得られた。

 人と人との接触が著しく制限されるなか、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ率いる日本代表候補のトレーニングメニューを流と共有できた。「メニューのレベル、高かったです。ついていくのがやっとでした」。おかげで、2019年のワールドカップ日本大会で8強入りしたチームの背景を知れた。モチベーションも上がった。

「これだけのことをしてベスト8に入れたのか…とも、これ以上のところに行くにはハードさの部分か、頭の部分かでさらなるレベルアップが求められる…とも思いました。そこへ食い込んでいけるように、しっかり準備したいです」

 2021年2月。最後のトップリーグが開幕した。2023年のワールドカップ・フランス大会に向け、代表の選考レースも再スタートした格好だ。

 盟友に「もっと自分を出したら?」と言われていくつかの季節を経たいま、森川は自己表現への「自信」をみなぎらせている。

「ラグビーをやっているからには一度は日本代表にもなりたいし、ワールドカップにも出たいです。同期、身近な人、コーチに自分の変わらないといけない部分を見つめる機会をいただいて、少しずつチャンスをつかめていけたかなという感じです」

 3月13日、東京・秩父宮ラグビー場での第4節(vs 東芝)で今季2度目の先発を果たす。

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