国内 2021.02.26

トップリーグデビューまでの献身。キヤノン船木頌介はずっと「精進」したい。

[ 向 風見也 ]
トップリーグデビューまでの献身。キヤノン船木頌介はずっと「精進」したい。
右PRでスクラムを組む、キヤノンイーグルスの船木頌介(撮影:高塩 隆)


 開幕節でデビューを果たした。

「嬉しい、と、勝ちたい、が、一番でした」

 2月21日、東京は町田GIONスタジアム。船木頌介は、キヤノンの右PRとして先発する。加盟する国内トップリーグでの初出場だ。NTTドコモを相手に後半32分までプレーした。

 終わってみれば、改めて「嬉しい、と、勝ちたい、が、一番でした」。自身の交代後にチームは一時24-23と勝ち越すも、ノーサイド直前に逆転されて24-26と敗れた。

 悔やまれるシーンがある。

 序盤からスクラムを優勢に進め、前半9分には相手の右PRの北島大を一時退場に持ち込んだ。ところがその直後、敵陣ゴール前中央での1本を押し込みながらボールを失う。

 最後列のコーバス・ファンダイクの足元にあったボールへ、対するニュージーランド代表のTJ・ペレナラが飛びついていた。

 最前列で頭を差し込んでいた船木は、優位性を活かしたいあまりに前のめりになってしまったと反省する。

「フロントロー(最前列)がちょっと、がめってしまった。自分だけ、ちょっと、(前に)出てしまった。セットピースは勝っていたのに試合に負けたのは悔しい。次に活かすしかない」

 天王南中、秋田工高、明大を経て2019年に入部。身長177センチ、体重107キロの24歳がファーストフィフティーンに入った裏には、ハードワークがあった。

 沢木敬介監督が就任したのは昨夏のこと。2016年からサントリーの監督としてトップリーグ2連覇を果たした45歳のもと、エリアを問わず複層的な仕掛けで防御を切り裂く。

「プレッシャーのなかでも、(以前のキヤノンと)変わったラグビーをする」

 選手に求められるのは運動量にスペース感覚、ただトレンドをなぞるのとは違う能動的な意識だろう。役割上、攻撃ラインの手前側に立つことが多い船木は、「サインも複雑。自分の動き、仕事を理解しなければいけない」と語る。

「一言でいえば、すごく難しいです。一応、FWのシェイプ(陣形)の動きは決まっているんですけど、横(に立つ選手)とのコミュニケーションが必要。デコイラン(おとり)をする時も後ろの声を聞き、(自分がどう動くか)横に伝えなきゃいけない。コーチ陣に練習のレビューをしてもらって、少しずつ(ラグビーを)理解できるようになってきました」
 
 沢木とともに着任した37歳の佐々木隆道FWコーチからは、モールを仕込まれる。

 立ったボール保持者を軸に塊を押し込むモールでは、個々の力よりも組み手同士のまとまりが肝となる。以前は「ただ、組んでいた」だったかもしれぬキヤノンのモールに、最近では一定の理論と情熱が詰まっていると船木は感じる。

「スクラムと同じで、自分勝手に出て行ったりしては相手にすぐ(塊を)割られる。8人で固まることを意識します。隆道さんには(FWが)8人で押す意識、押し方、横とのバインドをいちから教えてもらった」

 主将を務めるのは田村優。日本代表で移籍4年目のSOだ。

「一貫性はないです。まだ。チームとして。爆発力はすごくあると思うんですが」

「個人練習はするようになりました。ちゃんと。去年まではクラブチームみたいで、大学生の方が頑張ってるんじゃないかなと思うくらいの感じだった」

 開幕前のオンライン会見でストレートに述べた32歳は、試合中の情報伝達では工夫を凝らすようだ。

 初戦の前半17分。先制ペナルティゴールを相手に与える間、選手同士で円陣を組んで何やら、訓示していた。その際の様子について、レギュラー定着を目指す若者は証言する。

「一回、深呼吸をさせて、気持ちを落ち着かせてからしゃべってくれる。それで、(話が)頭に入る。自分たちで焦って、熱くなって、それぞれが勝手にしゃべる…ということはなくなっています」
 
 年始に各クラブで新型コロナウイルス感染症のクラスターが出たため、開幕は当初の予定よりも約1か月、遅れた。日程の短縮に伴いレギュラーシーズンは4月11日までの全7節となり、同月17日からのプレーオフトーナメントへは全チームが出られる。

 沢木はこの仕組みを踏まえ、レギュラーシーズンでは「僕らの積み上げてきたものをプレッシャーのなかでも出せるかどうか」を最大の焦点にしそうだ。

「もちろん、勝負にはこだわんなきゃいけないですよ」としながらも目先の結果に一喜一憂せず、個々の資質を見定める。危機感もあおる。

「このチームに必要な態度ではない選手は、いらないよ、という話はします」

 2月28日の第2節は兵庫・神戸総合運動公園ユニバー記念競技場であり、2018年度王者の神戸製鋼が登場する。船木は静かに、「精進します」と連呼する。

「まだ自分に足りないことはいっぱいある。Aチームだから(安泰)というのはないと思っています。精進しなきゃいけない。全チームで一番のスクラムを組もうと、心がけています」

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