国内 2021.02.16

妥協なき沢木体制のキヤノンで田村優も「のびのび」。根気強く「一貫性」を育む。

[ 向 風見也 ]
妥協なき沢木体制のキヤノンで田村優も「のびのび」。根気強く「一貫性」を育む。
オンラインで会見したキヤノンイーグルスの田村優主将(左)と沢木敬介監督


 言葉は濁さない。今季からキヤノンイーグルスを率いる沢木敬介監督は、自軍をこう見る。

「一貫性を保たなければいけない。それが、一番のイーグルスの課題だと思います。いいパフォーマンスを継続的にどう出すか、そのために何が必要か。選手一人ひとりが考えないといけない」

 一人ひとりと根気強く向き合い、その延長で豊かな組織を作りたそうだった。

「例えば練習に対する準備、戦術に対する事前の学び、リカバリー…。そういう取り組む姿勢というところが、選手によって違います。取り組み、行動を変えないと、パフォーマンスも変わらない。選手には『いままで(昨季以前)と同じ取り組みでいいパフォーマンスを望んでも無理。いいパフォーマンスをしたいなら取り組む姿勢を変えよう』と話しています。習慣を変えるのには時間がかかります。ただ、だいぶ、そこが変わってきている選手もいます。うちには日本代表の選手もいますし、ジェシー(・クリエル=南アフリカ代表として2015、2019年のワールドカップに出場)のようなプロフェッショナルがいる。いい見本に学べとは伝えています」

 国内ラグビートップリーグに2012年から参戦の同部は、最後にシーズンが成立した2018年度に16チーム中12位と低迷。途中で打ち止めとなった2020年は6戦3勝と勝率5割で、全勝だった神戸製鋼、パナソニックにはそれぞれ16-50、17-51と大敗した。田中史朗、田村優と2019年ワールドカップの日本代表を擁しながら、主力組のネームバリューと得られる結果とのバランスを保ち切れなかった。

 沢木が託されたのは、さようなクラブの改革だった。

 日本代表のコーチングコーディネーターとして2015年のワールドカップ・イングランド大会で史上初の3勝を挙げ、2016年度からの3シーズンは就任前に9位だったサントリーの監督となり優勝、優勝、準優勝と結果を残した。

 スーパ―ラグビーのサンウルブズでのコーチングコーディネーターを経て、キヤノンの指揮官となったのは昨夏のことだ。

 外から見た新天地の印象は、「脅威に感じる時とそうでない時の差がある」。その波を最小化させ、プレーの「一貫性」を高めたい。まずは持ち前の厳しい視線で、求めるプレーの基準を厳格に定めた。

 実戦練習のさなか、ある選手が空いた区画へ球を蹴った。プレーが途切れるや、沢木はその判断自体はよしとしながらキックの飛距離、種類には再考の余地があるとの旨で叫ぶ。曖昧さを避ける。

「コーチングでは、よかったところと改善しなきゃいけないところの線引きをしながら、選手に納得させ、考えさせるのが大事。そのプレーがよかったのか、悪かったのかもわかんないで、ただ何も考えないでボケっとやっているだけではうまくならない。選手たちにとって『よくなっている』と思うプレーも、俺の基準では『よくない』という時もあると思う。その基準は、伝えるようにしています」

 新型コロナウイルス禍に伴い一時活動を停止するまでに、古巣のサントリー、田村が所属していたNECとの練習試合をそれぞれ43-35、59-15で制している。つぼにはまった際は攻撃ライン上の全選手がパスの受け手と化し、相手に的を絞らせない。

「シンプルに、スペースへアタックする。いまはどのチームもニュージーランドのシステムを主流にしていますけど、僕らは自分たちのオリジナルのシステムでのボールの動かし方にチャレンジしたいと思っています。高度なスキルを身に付けた選手を増やしながら、オリジナルのラグビーを追求していきたい」

 沢木から主将に抜擢された田村は、「キヤノンでもパフォーマンスを出せるようになった」と実感する。

 日本代表でもともに戦った指揮官が加わった入団4季目は、「のびのび、できてます」。高次元でビジョンを共有できる。

「いままで(昨季以前)は、チームの技術レベルに合わせて、自分の持っているものを出せずにいた。いまはそこ(周囲)に合わせる必要がないというか、持っているものを出していいということなので」

 選手へゲキを飛ばす姿で知られる沢木は「いまなら、僕よりも優のほうが厳しいですよ」と笑い、こううなずくのだ。

「優には、低いレベルに合わせる必要は一切ないと言っている。下のレベルに降りてこず、上のレベルに皆を引き上げる。そういう強いリーダーとして、頑張ってもらっています」

 サッカーをはじめとした他競技における指導論にも詳しく、キヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長の著書にも触れてきた45歳。コーチング、マネジメントへの情熱を、現有戦力の底上げに用いる。

「一貫性」をより高めたいと強調したのは2月15日。予定より約1か月遅れたトップリーグの開幕を、約1週間後に控えていた。

 21日の初戦では、東京・町田GIONスタジアムでNTTドコモと激突。第2節以降は神戸製鋼、パナソニック、ヤマハといった上位の常連と順にぶつかる。今季の目標はあえて公言せず、「一試合、一試合で成長できる試合をしたい」と意気込む。

「序盤は神戸、パナ、ヤマハと続く。ここで自分たちの取り組んできたことに勇気を持ってチャレンジできるか。そういうターゲット(目標設定)ですかね。いまは」

 ボスはCTBのマイケル・ボンド、WTBのホセア・サウマキのポテンシャルに期待する。かたや田村は「BKはトップリーグでベストになれる。もともと(選手が)持っている能力、特性に合ったラグビーになったので」。いかなる時間帯も首尾よく攻め続けたい。

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