【コラム】逆境で生まれた知恵とつながり。
最近さらに新たな取り組みも始めた。
対抗戦Bは試合ごとのMOMや1年間のMVPが関東協会から選出されない。それならばと、学生たち自らMVPと新人王を決めて、表彰することにした。
公平性をなるべく保つために、始めに大学ごとでMVPと新人王を1人ずつ、詳細な理由を添えて推薦してもらった。
それを「合同企画」の企画部門6名で、定量的指標やインパクトなど様々な観点で話し合う。候補者を絞りながら、最後は投票で決めた。
新人王はスムーズに決まった。なによりインパクトがあった。
選ばれたのは上智大の阿部勝矢。大学からラグビーを始めてわずか3か月で、全試合スタメンを飾った。それもポジションはプロップ。103㌔の巨体を揺らして活躍した。
MVPはAブロックとBブロックでそれぞれ1人ずつ選出。
Aブロックは成蹊大4年のFB神田圭大が選ばれた。5トライを挙げてトライ王に輝いただけでなく、そのトライの多くが戦況を変えるカウンターアタックから挙げたものだった。
Bブロックは明治学院大2年のNO8小倉海聖。FWの選手でありながらキッカーを務めて、コンバージョンは13本すべて成功。トライも記録し、チームに大きく貢献した。
MVPは票が割れた。特にAブロックには武蔵大の4年生、高橋海斗がいた。本来であればHBの選手。ケガでラストイヤーはグラウンドに立てなかった。だが学生コーチとして尽力したことを評価され、武蔵大からMVP候補に推薦されていた。数値では測れないMVPを選ぶのはかくも難しい。
選ばれた3人には嬉しいプレゼントが送られた。トップリーガーからのサイン入りTシャツだ。協力してくれたのは、サントリーのWTB/FB江見翔太とSH齋藤直人。江見は対抗戦B所属の学習院大出身だから普段から気にかけてくれていた。サントリーの府中グラウンドを訪れると、2人の協力のもと、たくさんの選手が快くサインを書いてくれた。
企画部門の一橋大3年、井上玲さんはこの企画に手応えを感じている。
「(この取り組みが選手たちにとって)来季へのモチベーションにつながっていると感じます」
数か月前までは顔も名前も知らなかったいわば対戦校の学生たちが、同士となって協力し合い、リーグの価値を上げている。これが本来のあるべき姿と木下さんは話す。
「対戦校なのでグラウンド内では敵かもしれないけど、ラグビーの特徴を踏まえれば、試合中の40分×2以外のところではもっと交流できる機会があっていいし、対面で会った時に快く挨拶できる関係になれば、リーグを内側から活性化できる」
逆境の中で生まれた知恵とつながりが、そこにあった。