国内 2021.02.03
ディアンズ ワーナー、東芝への決断(2)仲間と、花園へ。高校部活が育んだ大器

ディアンズ ワーナー、東芝への決断(2)仲間と、花園へ。高校部活が育んだ大器

[ 編集部 ]

 楽しくプレーする庭を与えてくれた あびこラグビースクールから一転、流経大柏は生徒を同時にアスリートとしても扱う、厳しい場所だった。3年前、トップリーグチームのS&Cコーチである父グラント・ディアーンズさん(NECの登録名)は息子ワーナーの進学にあたりいくつかのチームを回って、流経大柏高校に決めた。トップリーガーの選手経験もある教諭・相亮太監督の作る練習の空気を、ワーナーも受け入れていた。

 入学後は試練もあった。今よりずっと未熟だった日本語の壁、高校日本一を掲げる「RYUKEI」の練習密度と強度の高さ、などなど。ワーナーは元来穏やかな性格だ。負けん気に燃えて成長するのはもう少しあとのこと、まだ来日3年目で飛び込んだ強豪チームでの生活には、グラウンドで瞳を潤ませることもあった。

 乗り越えられたのは、仲間の存在があったからだ。

「今でもシャイで、変わりがないけど」(本人)

 卒業を控えた今、制服姿で輪を作る表情はみんな普通の高校生だ。

「練習も、授業でも一緒。それは全然苦じゃありません。一緒が楽しい」

 慣れない1年生時代、初めての合宿、レギュラー争い、目標の舞台。特に勝負の3年目はパンデミックの渦にのまれ、日本中の高校生とともに特別な経験をした。チームは、年末年始の花園(全国高校大会)に入る頃から目覚ましい成長を見せ、難敵を退けて勝ち上がった。ターゲットの日本一はかなわずベスト8。それでも悔いのない時間を過ごせた。

 日本に渡ったワーナーは、高校ブカツの文化の中でポテンシャルを発揮する機会を得た。「この仲間のために」そんなメンタリティーの中でぐっとたくましさを増したのは、年越しのあたりからだった、と監督の相先生は振り返る。

 ワーナーという選手、人間にとって花園をめぐる経験は大きかった。

「NZの高校生は全国大会と言っても5チームか6チーム、地区代表が集まるやり方。花園は60以上チームが集まる厳しい大会、あんないい舞台で、すごい経験ができたのは日本だから。僕が成長できたのは、RYUKEIと仲間のおかげだから」

 言語と発達の分野では「ことばは子供の脳を作る」と言われる。言葉を交わしともにして、初めて得る認識がある、感情がある。「言葉は人間関係を作る」とも。彼が穏やかな面差しで表現しているのは、文法や語彙ではなく、フィールドや学校でこの3年間に築いたコミュニティそのものだ。

 ワーナーがメディアのインタビューの作法を学ぶのはこれからだろうが、仲間と一緒に作り上げてきただろう言葉には、一つひとつに実感があった。その口が言う。

「日本代表のジャージーを着て、ワールドカップに出たいです」

 日本に来て5年が経とうとしている。オールブラックスを夢見ていた子が、ジャパンを望む青年になる。

 春からは、NZの名将ブラックアダー ヘッドコーチ率いる東芝でより激しい練習が始まる。

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