国内 2021.01.03
第100回、みんなの花園③ スコアは21-21。「ノーサイドが、先に来た」

第100回、みんなの花園③ スコアは21-21。「ノーサイドが、先に来た」

[ 成見宏樹 ]

 その間、覚悟を決めた東福岡はFWで突進を繰り返した。ペナルティゴールのチャンスにもスクラムを選択してFWに賭けた。仰星はひたすらにタックルを繰り返し、ある時間帯は22㍍ライン上で5分近くラックサイドを守り切った。

 この間、18分の戦況はほぼそれだけだ。試合を通じて、プレーはごくシンプルだった。終盤はそれが極まった。走り、止め、味方にボールを託し、また進む。そんな単純なプレーが、とてつもなく速くて強くて、時間をおうごとリズミカルになっていった。

「後半47分」に、負傷と判断されて入れ替えになった仰星NO8倉橋歓太は、ベンチがその決断をするまでの間、にこやかにさわやかにタッチラインで笑っていた。奮い立つ心に従い、エンプティーランプ灯る体に嘘をつく。絶対に交代したくなかったからだ。その場の誰もがそんな心持ちになっていたのかもしれない。

 佐々木裕司レフリーが18分以上もノーサイドを告げられなかったのは、その間、どちらもボールをこぼさず、目の前の勝負から誰も逃げ出さなかったからだ。

 抽選の封筒を先に引いた東海大仰星の近藤翔耶主将は、メディアの前に出ても最後まで毅然と振る舞った。時々こみ上げるものを抑えようと胸を張って話す姿が立派だった。

「東福岡さんと仰星の違いは、自分たちのやるべきことをやり切れたかどうかでした。終わった瞬間、相手のキャプテンにはナイスゲームと伝えました。相手もナイスゲームと言ったと思います。後半の最後の方は、勝ち負けというより、東福岡さんと戦っているというより、もう30人でラグビーをしている感じでした。敵味方がなくなって。ノーサイドが、笛よりも先に来ていました」

 最後は仰星のノックオンで、終了の笛。選手たちはどっち側に攻めていたかに関係なく、近くにいる者と目を合わせた。笑みと握手、抱擁。両足とも痙攣して立ち上がれない選手もいた。それぞれに抱えた悔いや無念をあらわにするのは、互いの挨拶のあとと、抽選の前だけだった。

 世界中が特別で複雑だったこの年は、日本中の高校生が、いつも以上にたくさんの準備や心配ごとに奔走した。その代表として8チームだけがたどり着いた花園の芝で、長年のライバルの対決は、爽やかなまでにシンプルな戦いに昇華した。仰星21-21東福岡。両校の花園対戦戦績は、仰星5勝、ヒガシ が4勝、そして1分けになった。

 また、花園に教わった。

 キックオフと終了の笛をいい顔で迎えられたら、ラグビーは、最高なんだ。

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