本番直前に故障も最後まであきらめなかった。キヤノン庭井祐輔、日本代表への視線。
ジョセフは春以降、海外での試合やキャンプなどで選手の絞り込みを進める。庭井はその輪から離れてこそいたが、自身の状態や変わらぬ意志を指揮官へ報告し続けた。
8月上旬には、チームの練習試合に出られた。決して満足のいく出来ではなかったが、ここでもジョセフには自分がゲームのできる状態だと伝えた。毎度、毎度、返事も受け取っていた。
ひときわ心理的にタフだった時期は、その、状態の戻り始めた8月だった。最後の選手選考がなされる網走合宿の参加リストから外れ、目標との距離感を痛感させられたのだ。
「その週のトレーニングは、めっちゃ、しんどかったです」
31名の大会登録メンバーが発表されたのは、8月29日のことだった。HOには3大会連続出場の堀江翔太ら3名が選ばれる。庭井は名前を見つけられなかった。
大会期間中は、多くの熱戦を楽しんだ。日本代表にとって最後の試合もそのひとつだったが、国の期待を背負ったメンバーを「心の底から応援していました」と話す。
9月28日には、日本代表が静岡のエコパスタジアムで強豪のアイルランド代表を19-12で破るのを画面越しに見た。その日は、パブリックビューイングの会場へゲストで呼ばれていた。
「涙、出ましたね。皆がしんどいことをしてきたことをわかっていて、観ているので」
特にしびれたのは、前半35分頃のワンシーンだ。
自陣22メートル線付近での相手ボールスクラム。塊が、大型選手たちを押し返す。長谷川慎スクラムコーチが庭井たちに伝授してきた、8人一体型の組み方が奏功したのだ。
「成し遂げてくれたな…って」
日本代表の快挙達成への思いをこう述べる庭井は、「肩の荷が下りた」かもしれぬあの日までをこう、総括するのだった。
「ワールドカップ期間中、いつでも行けるという準備を最後まで保てた。そこは、自信になったかなと」
大会後の国内トップリーグは、わずか6節で終止符が打たれた。新シーズンは2021年1月開幕の見込み。キヤノンはいま、再生を図っている。
沢木敬介新監督は、日本代表のコーチングコーディネーター、サントリーの指揮官などを歴任。前年度まで主将を務めてきた庭井には、ワールドカップ日本大会組である田村優主将のもと副将を任せた。
今年の10月に29歳となる庭井自身もまた、生まれ変わりつつあるチームで日本代表復帰を見据える。身体のわずかな変化にもアンテナを張り、入念なケアを施す。
「沢木さんは僕の足りない部分もはっきりと言ってくれる。パフォーマンスを高める意味では、やりやすいです」
「これだけ大きなけがを2回、したのです。もう、したくない」
現在、水面下で編成される約50名の候補群には「入っていない」ようだが、ジョセフとは落選理由などについて対話。背中を押されている。
「出場時間が短すぎて、判断できる材料が少なかった」
「やっていること自体は間違っていないと思うから、頑張ってくれ」
連勝を重ねるチームの原動力となれば、かつての立場を取り戻せると信じる。2023年のワールドカップ・フランス大会は、観客席ではなく芝の上で体験したい。