国内 2020.08.04

トラウマにも後押しされて。中大ラグビー部、ウイルス対策の日々。

[ 向 風見也 ]
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トラウマにも後押しされて。中大ラグビー部、ウイルス対策の日々。
中央大学主将の川勝自然。トップレベルでのプレーは今季限りと決めている(撮影:向 風見也)


 場所は東京・八王子市内の人工芝グラウンド。7月15日の練習は、約40名の部員が2つのグループにわかれて時間差でおこなわれた。

 関東大学リーグ戦1部の中大ラグビー部は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため4月1日に一時解散。4年生は6月上旬からの活動再開に先んじて、グラウンド近くの寮へ戻っていた。

 独自の衛生管理のルールを作るためだった。平時はややあいまいだった土足エリアと室内履きエリアの区分けを改めて明確化したり、食堂を清潔に保つ方法を共有したり。この日のトレーニングでも、給水用のボトルは各々が用意する。タッチラインの外へ間隔をあけて置く。

 セッションを終えれば、部員たちは三々五々、人工芝を去る。互いの会話から漏れるフレーズは、「こっちにアルコール持ってきて」。トレーニングで使った道具には、必ずアルコールをスプレーして拭き取る。選手も帰寮前に所定の水道へ時間差で足を運び、手を洗って消毒する。

 あいにくの天気。チームを預かる松田雄監督は「雨が降ると、かわいそうなんだよな。最後のほうに風呂に入る選手が」といった旨でつぶやく。一度に浴室へ入る人数も、選手同士で制御しているのだ。

 グラウンド内外での規律順守を徹底するのは、主将の川勝自然。昨季の公式記録で身長180センチ、体重87キロというFLだ。4年分の思いを込める。

「厳しめのルールを決めてはいますが、それが僕らの掲げている目標(の達成)にもつながる。だから、やり遂げる」

 テレビで新型コロナウイルスのニュースが報じられ始めた頃から、なんとなく、嫌な感触があった。

 約4年前の3月末以降、部内ではしかが流行ったのだ。全部員の一時退寮と関東大学春季大会への出場辞退が決まった。神奈川・桐蔭学園高卒の川勝ら当時の新1年生は、寮の門を叩いて間もなく帰宅。入学式にも出られなかった。

「当時は1年生で右も左もわからなかったけど、『もったいない時間を過ごした。そこを変えよう』という意見はありました」

 感染症の怖さを肌で知る世代だから、「コロナ」の三文字を耳にするたび身の引き締まる思いだった。今度の混乱を受け、日本政府が緊急事態宣言を出すよりも先に一時解散。就職活動中の最上級生以外は、それぞれの実家などへ戻った。

 春のチーム作りが乱れることへ焦りを覚えながら、部員を6人ひと組に分けて互いの状況を把握。渦中のリーダーの掛け声は、「ここで、中大らしく差をつけていこう」だった。

 果たして川勝は、自らの言葉を体現する。

「昨季が終わってから身体が小さいという課題が出ていたので、ごはんをしっかり食べる、ウェイトをしっかりするという基礎的な部分を見直した」と、自宅での過ごし方に芯を通した。「春先に比べたら5~6キロは増えています」。他の選手も概ね筋力アップに成功したと続ける。

 中大には、留学生選手を招かずに下部降格を避けてきた歴史がある。きっと川勝は、規則性や勤勉さを自軍の「らしさ」と定義した。常に「らしさ」を貫くことが、今季の目標を超える手段と考えた。

 その目標とは「選手権」。部員たちと話し合って定めた。

 全国大学選手権へ出るのを視野に入れるが、「選手権に出場するだけではなく、選手権で勝つ、選手権のために…などの深い意味を込めて、共通認識にしています」とのことだ。

 昨季は遠藤哲ヘッドコーチを招いて1年目。運動量やスピードを強化しながら、入替戦出場を余儀なくされた。今季、つかんだ手ごたえをどう結果につなげるか。川勝は即答する。

「目標に一途に、選手一人ひとり、何ができるかを考える」

 翌日、同じ大学の他の部活で罹患(りかん)が発生した。ラグビー部はこれまでの行動が認められ数日間のみの活動停止で済んだが、10月開幕見込みのリーグ戦参加に向け気は抜けない。毎年恒例の夏合宿ができるかもわからず、首脳陣は最上級生がモチベーションを保てるかについて心配する。

 そんななかでも川勝はまず、自分たちが自分たちのために作った決まりを自分たちで守り続ける。その延長で、低くないハードルを全力で飛び越えたい。

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