国内 2020.08.03

都立青山高校ラグビー部2020【上】 新入部員19人! この学校でいちばん本気になれる。

[ 編集部 ]
都立青山高校ラグビー部2020【上】 新入部員19人! この学校でいちばん本気になれる。
8月1日、関東地方梅雨明け。都立青山高校ラグビー部も本格的に動き出した。(撮影/松本かおり)
初々しい1年生たち。珍しくラグビー経験者が5人も!(撮影/松本かおり)
3年生たち。中央の青いシャツが片岡正太主将。CTBでプレーする。(撮影/松本かおり)
2年生たち。後方に秩父宮ラグビー場が見える。(撮影/松本かおり)


 この時期、本当なら世界の目が集まり、トップアスリートたちが躍動していた。しかし、巨大スタジアムはひっそりとしたままだ。
 ラクビーマンたちの憧れ、秩父宮ラグビー場から声援が消えて5か月ほど経った。
 8月最初の週末、外苑前は人通りが少なかった。

 そんな中で、声が響いていた。
 こっち、こっち。パスっ。
 ザッ、ザッ。
 土を蹴る音も。
 8月1日、関東地方梅雨明け。都立青山高校ラグビー部は試験明け。青空の下、少年たちがボールを追っていた。

 片方のゴールポストは秩父宮ラグビー場のすぐ脇。もう一方のポストの目の前には、昨秋おこなわれたワールドカップ(以下、W杯)の中枢、組織委員会の入っていたビルがある。
 全部員が4チームにわかれ、2か所でタッチフットに興じれば校庭の大部分に人が散らばる。この春、同校ラグビー部には15人の1年生たちが加わった。女子マネージャーも4人。
 総勢49人(女子マネ6人を含む)の大所帯だ。

 コロナ禍の影響を受け、3月に始まった休校期間は5月いっぱいまで続いた。いつもと違う春に、思うように部員勧誘ができないクラブは、全国にたくさんあった。
 青山高校だって変わらない。例年なら入学式の日、各部の部員たちがずらりと並び、1年生たちを迎える。ラグビー部は気迫と数で勝負だ。複数人で候補者を囲み、入部を勧める。部員確保がクラブ存続の生命線と理解しているから、並々ならぬ意欲でその日に臨むのが伝統だ。
 1年のうちでもっとも大事と言ってもいい活動を、2020年の春は思うようにできなかった。

 それなのに、女子マネも合わせて19人もの部員が入ってくれたのは、教室を使って部の紹介をする説明会を催し、フレッシュマンたちの心を動かせたからだった。
 みんなで用意したプロジェクト。説明会当日に力を発揮したのが2年生の山本大(まさる)だ。CTBやFLとしてハードタックルを見せる男。説明会の日も、持ち前の当たりの強さを見せた。
 知恵を持ち寄ってパワーポイントで資料を作り、ラグビーの魅力をいろんな角度から伝え、視覚と脳に刻み込んだ。そして、魂に訴えかけるような、山本の喋りがそこにいた新入生たちを惹きつけた。
「つい、熱くなってしまって」
 本人は、そう照れる。

 荏原五中の時はソフトテニス部だった1年生の川瀬修は、高校でも同じ競技を続けようと考えていたが、説明会に参加して気持ちが変わった。
「この学校で、いちばん本気になれるのはどの部だろうと思っていました。心を打たれました」
 山本の熱弁に感激した。試合の映像にひき込まれ、先輩たちの体の大きさに憧れた。昨年のW杯での日本代表躍進を見て「凄いな」とは思っていたが、「まさか自分がやることになるとは」と話す。

 部の熱を伝える責任を果たした山本は、練馬ラグビースクールでプレーしていた。ラグビー部のある北中野中出身。中学ラグビー部の部員が少なかったから思う。
「少人数にもいいところはあって、楽しかった。でも、たくさんの仲間とできる楽しさは、やっぱり、それ以上なんです」
 説明会でも、素直に、その気持ちを語った。事前に用意した資料で足りないことは黒板に書いた。自身がラグビーをやってきて感じた素晴らしさを、そのまま伝えた。

 監督を務める宍戸亮太先生は、勧誘の大部分を、部員たちの自主性に委ねている。
 もちろんサポートはする。この春に作った勧誘のビラ(制作してくれたOB会に感謝!)には、W杯で人気者になった稲垣啓太の言葉をラグビーマガジンから抜き出して記し、新入生たちが知りたい情報もそこに載せた。
 新3年生、新2年生の計28人のうち、中学からのラグビー経験者は3人しかいないこと。平日週2日はオフで、一日の練習は2時間以内。卒業生の進学実績も。
 昨秋の花園予選でベスト8に入ったことも、ドーンと伝えた。

 多くの新入生を集めるのが部の伝統になり、毎年それなりの成果をあげてきたけれど、試行錯誤の連続だ。
 例えば強引に入部を勧めれば、一度は加わってくれたとしても、いつか歪みが起きる。何人もの部員が辞めていった年もある。
 だから宍戸先生は、今年の1年生たちが笑顔でグラウンドを駆ける姿を見て目を細める。
「珍しいことに、15人中5人もラグビー経験者がいるんです。高校から始める子たちがもっと入ってくれたら良かったのですが、10人は楽しそうにやってくれている。それが嬉しいですね」

 小松中時代はテニス部の下山冬雲(とうも)は、170センチで47キロ。友だちに誘われ、「ガタイがよくなると思って」と入部を決めた。
「ボールの動きが不規則で難しい。周囲との連係も。球技は苦手なのですが、ラグビーは楽しいです」
 仲間ができたのも嬉しい。部の雰囲気が好きだ。

 いろんな方法で部員集めをやってきて思うのは、甘い誘い言葉を伝えるより、自分たちの本気を示すことが、何より仲間を増やすことにつながるということだ。
 みんな、高校時代に熱中できるものを探している。誰もが学業面で青山高校を選び、進学してきているが、3年間をもっと充実したものにしてくれるものがあれば幸せだ。

 宍戸先生は今春の休校期間、在宅を余儀なくされている部員たちに、特にトレーニングについて積極的に呼びかけることはしなかった。なんだかんだいって、普段はラグビーに費やす時間も少なくない。期せずしてできた時間を、勉強にあてたい者が多いと思ったからだ。
「ところが、あとでみんなに聞くと、ラグビーに飢えていたと言うんです」
 外苑前の土のグラウンドで楕円球と出会った少年たちが、たった1年、2年のうちにラグビーを愛し、逞しくなり、まっさらな新入生たちの生き方に影響を与えるまでの男に育つ。

 秩父宮ラグビー場のすぐそばで、毎年、そんな物語が紡がれている。
 そしてそれは、ウイルスが世の中をかき乱した2020年も繰り返されていた。

だいぶラグビーらしい動きになってきた1年生。楽しそうに駆ける。(撮影/松本かおり)
自身も都立高校(秋川)出身の宍戸亮太監督。部員たちが熱心に見つめる。(撮影/松本かおり)


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