誰にでも人生は変えられる。日野の田邊秀樹がオンラインセミナーを開くわけ。
講演前には、部活の顧問教諭などの主催者と綿密に打ち合わせをおこなう。さらに講演後には受講者からレビューを受け取り、次回以降の肥やしにする。
いまではサッカー少年、大学のアメフト部員とさまざまな集団を教える対象とする。話の流れで「誰にでも競技を辞める時が来る」というシビアな現実も示すが、「そのことを初めて考えることができた」とポジティブな感想ももらえるという。
自分の経験を改めて俯瞰できるうえ、その内容が他者に役立つことがわかる。だからこそ、1人でも多くの現役選手にも同じ体験をして欲しいと考える。
自分の話に需要があるものか…。そう躊躇するアスリートには、こんなエールを送る。
「たくさんの人が共感してくれることは、たぶん、ないです。それができる人はひと握りしかいない。でも、ひとりの人生を変えられるとすれば、それは嬉しいことです。だから、皆も『たくさんの人に伝わらないと意味がない』とは思わないほうがいいかな」
今年は1月12日のトップリーグ開幕節(東京・秩父宮ラグビー場/対 NTTコム ●20-29)で、左膝の前十字靭帯を断裂。早大時代に同じけがをした際のリハビリが過酷だったため「同じ場所をやったら、(現役生活を)辞めよう」と考えてきたが、画面の向こうへ語りかける頃には考えが変わっていた。
「あきらめるのは簡単。行動を起こしたとしても、何もしなかった時と結果は同じかも知れない。頑張ったところで試合に出られないかもしれない。ただ、ここで頑張ったら、僕は、成長していますよね? (結果は同じでも、その過程をどう過ごすかによる)差はめちゃくちゃでかい」
2月にはメスを入れ、切れた靭帯の箇所へ左太ももの裏の筋肉を移植。チームが長い自粛期間を経て7月からグループ別練習を始めるなか、リハビリの質を上げてきた。いまではランニングができるようになり、10月の全体練習復帰を見据える。
プロ選手を続けるかたわら、セミナー活動でも個別指導に挑むなど活動の範囲を広げたいという。「ずっと自分が一番成長できる場所にいたい」と世界観を広げると同時に、関わる他者の世界観も豊かにしてゆく。