国内 2020.03.27

サントリーのサム・ケレビが笑顔で握手をする理由。

[ 向 風見也 ]
サントリーのサム・ケレビが笑顔で握手をする理由。
トップリーグを熱くするワールドクラスのサム・ケレビ(撮影:松本かおり)


 ワールドカップ自国開催大会後初の国内ラグビートップリーグは、複層的な理由での延期や中止の措置が重なり2月中旬の6節までで終了となった。開催中のゲームでのワンシーン、ワンシーンが、かえって色濃く思い出される。
 
 例えば、サントリーが試合を始める直前のこと。おもに新加入したオーストラリア代表のサム・ケレビは、ひとりひとりの仲間の目を見て握手を交わしてキックオフの時を迎えていた。

 身長186センチ、体重106キロのCTBはまず、人とのリンクを意識していたのだ。フィジー出身で2016年にオーストラリアの市民権を獲得した26歳はこう明かした。

「(握手は)自分から心がけています。チームメイトとつながり合えるよう、自分から接していく。私はフィジー人なので、自分から声をかけに行くのは自然な流れです。疲れている時に声を掛け合ってエナジーを上げるのも大事」

 同じポジションで定位置を争ったり、同時出場したりする梶村祐介いわく「よく発言もしてくれますし、ラグビーを離れればちょっかいをかけてきたり、おどかしてきたり、サムが2個上なのですが、年下みたいな感じです」。当の本人はこうも続ける。

「ワールドカップの時、日本の方には本当に温かく迎えてもらいました。ラグビー選手として皆から離れてしまうのは嫌。ファンからも近づいてこられるようになりたいです。接しやすい人になりたいと思っています。チームメイトに対しては特に、です。オフ・ザ・フィールドでつながれれば、オン・ザ・フィールドでもつながれる」

 ケレビの仲間を思う態度が具体的なプレーに現れたのは、1月12日の開幕戦(東京・秩父宮ラグビー場)。

 この日のサントリーは前半29分、危険なプレーをした選手が一発退場処分を受けていた。ほとんどの時間を対する東芝より1人少ない状態で戦ったのだが、ケレビは長距離を走りながらのカバーディフェンスでピンチを最小化。19-26と惜敗も、7点差以内での敗戦による勝点1を確保できた。

「どの状況でも、隣のチームメイトのためにハードワークしています。やらなくては、動かなくてはという気持ちがある。攻守でチームメイトにエナジーを与えることを目指しています」

 攻めては「スペースをまず見つける。そこへアタックしていく」という意識でのラインブレイクと「自分の強みになれば」と個人練習で磨くオフロードパスを披露する。

 梶村から「『きっとここでラインブレイクしてくれるな』というところで必ずラインブレイクしてくれます。そして、その裏に走ればオフロードが来る。ここが凄いというところは多すぎて絞り切れないですけど、『こうだろうな』と思ってくれることを必ずしてくれるという期待感がある」とも評される戦士は、日本ラグビーのレベルついても高く評価していた。

「海外から来る選手のなかには日本に来ればリラックスできると思う人もいるかもしれない。でも、実際はそうではない。テストラグビー(国代表戦)に比べたらフィジカルは劣りますが、スピード、フィットネス、スキルがある。素晴らしい日本人選手もたくさんいます。私は負けず嫌いなので、競争率の高いリーグにいることは嬉しい」

 梶村は「彼ほど派手なプレーはできないかもしれませんが、チームのキーマンが目立てる状況を作れるようにしたい。僕が他と差をつけられるのは運動量です」とも宣言。能力の際立つケレビは、組織を活性化させる力でも際立つ。

「まだまだ自分自身、もっと激しい練習をしなきゃいけないし、ディテールにもこだわりたい。いまはサントリーでの活動に集中します。(代表活動は)その後の話。自分自身に高い基準を設けている。オーストラリア代表や(前所属先でスーパーラグビーの)レッズにいた時のそれを、サントリーでも維持しています」
 
 来るべき時が来たら、黄色いジャージィのムードメーカーは笑顔でキックオフの瞬間を迎える。

PICK UP