国内 2020.02.21

村田毅が見た「本質」とは。新興の日野をどう勝たせるか。

[ 向 風見也 ]
村田毅が見た「本質」とは。新興の日野をどう勝たせるか。
日野レッドドルフィンズをけん引する村田毅。写真はクボタスピアーズ戦(撮影:大泉謙也)


 日野の村田毅はどんな主将か。東芝から新加入の浅原拓真が答えた。

「チームの和を作る。ポジティブ。そう意識している。結果として大差で負けていますが、切り替えられている。毅の言葉は身に染みる」

 2月16日、雨に降られた東京・江東区夢の島競技場。国内トップリーグの第5節に挑み、クボタに12-49で敗れていた。

 昇格2年目の今季はここまで1勝4敗。試合後の会見に出た村田は、実際の試合展開に基づく具体的な言葉を並べながら「前進するためにも改善したい」とまとめた。

「外が寒くて、天気が悪くて、しかもこの競技場に屋根が少ないなかでもたくさんの方に応援に来ていただいて…。選手としてもやっていて嬉しかったです。ありがとうございます。試合としては、前半は自分たちの時間と相手の時間が明確に分かれていて、『自分たちがこうやればリズムを作れる』と思えた部分はありました。ただ、後半は相手の10、12、13番(バーナード・フォーリー、立川理道、ライアン・クロッティ)のゲームコントロールで自陣にくぎ付けになったこと、相手の大きなFWに姿勢の高いキャリー(突進)をしてしまってホールディングされる(つかみ上げられる)ことがありました。キャリーのところは試合前に対策(すべき点)として挙げていたのですが、やられてしまった。これから戦う相手にも2メートル級の選手はざらにいる。この点(ランナーの姿勢を低く保つこと)はクボタに勝てなかったからというより、チームとして前進するために必要なこと。改善したいです」

 建築家の父、音楽家の母と兄を持つ。身長186センチ、体重103キロの身体を接点にタフに差し込む31歳だ。慶大、NECを経て2017年に日野(当時 日野自動車)へ移籍し、主将2シーズン目を迎えている。

 2015年はワールドカップイングランド大会出場を目指し、エディー・ジョーンズ率いる日本代表の宮崎合宿でハードワーク。しかし同日本大会があった2019年は、あえて日本を離れてニュージーランドへ留学する。

 カンタベリー地区代表に参加し、「バスに3時間ぐらい揺られて試合をして、そのままバスで帰る」など豊かな経験を積む。何より「そこの選手の人間性に触れられた」ことに、価値を見出した。

「一番感じたのは、文化の違い。受けてきた教育が彼ら(ニュージーランド人)を形成していると改めて気づけた。どのスポーツでも同じかもしれませんけど、日本のラグビー界が強い国の表面的な部分だけをコピーしようとしても…と感じました」

 日野はカンタベリー地区の強豪クルセイダーズとパートナーシップを形成。戦術・戦略やプレースタイルの共有によって攻めのバリエーションを増やしているが、その本場に身を置いた村田は別な視線をチームに付与した。

 開幕前に時間をかけたのは、「自分たちの本質が何か(を考えること)」だった。

「自分たちの本質を理解し、自分たちをクリエイトする。それが大事。さかのぼってしまえば、日本の運動の歴史には体育、軍隊の訓練が関係していて、『右向け右』『あれしろ、これするな』があるわけじゃないですか。僕もラグビーを始めた時は、そのような指導を受けている。だけど、彼ら(ニュージーランド人)は楽しむためにラグビーをやっていて、チャレンジしたことを褒められる。僕らと彼らでは、生まれてきてからいまに至るまでのチャレンジしてきた場数が違う。その本質的な違いを度外視しては、クルセイダーズとのパートナーシップもうまくいくわけがない」

 組織の「本質」を考えるヒントに、日本代表の足跡がある。

 ニュージーランド出身のジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ率いる現体制は、多国籍の選手がひとつの道を信じるという意味の『ONE TEAM』という標語を掲げている。タックルされながら球をつなぐオフロードパスなど、チャレンジングと見られるスキルも奨励。ワールドカップ日本大会で8強入りした。

 一方、村田が最後までメンバー争いに挑んだイングランド大会時の日本代表では、世界的名将でありながら日本での指導歴が長いエディー・ジョーンズ前ヘッドコーチが先頭に立った。オフロードパスをはじめとしたリスキーに映るプレーは原則禁止とし、トレーニング中の選手に苛烈な言葉を浴びせることもあった。得られた結果は強豪の南アフリカ代表などからの歴史的3勝。2011年までワールドカップ通算1勝だったアジアの島国は、一気に注目を浴びた。

 村田は、日本人がチャレンジングと見られるスキルに挑むことに否定的な意見を持っているわけではない。ただしジョーンズの万事への厳しさは、当時の日本代表を勝たせる最善手だったと分析。さらに2018年のトップリーグで優勝した神戸製鋼のストーリー、そして自身のニュージーランドでの滞在経験を踏まえ、ひとつの真理を見出した。

「成功するチームは、本質に向き合っている」

 つまるところ、こうだ。

「彼(ジョーンズ)だから、日本を理解した。神戸製鋼も、会社の歴史を見つめ直したと聞きます。成功するチームは、本質に向き合っている。このことを答え合わせするように認識しています。ああ、そうなんだ、あの時もそうだったなと。(ニュージーランドでは)主将としてチームを引っ張っていくなかで、すごく大切なことを気付かせてもらった」

 日野は2016年に元サントリーの佐々木隆道を招いて以来、多くの代表経験者を加えている。さらにトップリーグに昇格した2018年から、クルセイダーズとの提携を始めた。

 もちろん村田の言葉を借りれば、新しい選手と新しい枠組みを融合するにはそのクラブの「本質」を無視してはなるまい。

 村田と同時期にパナソニックから入った林泰基は、既存の社員選手、相次ぐ移籍加入選手、新外国人選手がシンクロする難しさを「(選手間の)スキルレベル、戦術の理解力もまだまちまち」と認める。

 現状を打破するには「皆が皆に気を配る行動とか、皆のクセを知って助け合う動き」が必要だと話す。

「前を見て、声を出して、情報共有。それができたら、あとはそれぞれが能力を出せると思う。だけどそういうことをやって(着手して)いかないと、どれだけいい選手がいても強いチームには勝てない」

 開幕前に「本質」を見る勧めを説いた村田は、「チーム力は去年よりも前進している」としてこう続ける。

「結果がついてこないことで、チームの皆が自分たちのことを信じられなくならないようにしたいです。毎試合、毎試合、前回の反省と今回の改善点を持って過ごしている。それに対してできたか、できなかったかを振り返っていけば、(勝敗としての)結果が出なかったとしても、『そこ(ある項目)はポジティブだよね』というふうに言っていける。そうすれば自信は、失われない。ここからは、バラバラにならないことが大事です」

 チーム作りの「本質」はもちろんチームを壊さぬための「本質」とも向き合い、22日の第6節へ挑む。場所は東京・秩父宮ラグビー場。相手は一昨季まで2連覇達成のサントリーである。

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