国内 2020.01.07

初優勝に王手。御所実の防御はプライドとトレーニングでできている。

[ 向 風見也 ]
初優勝に王手。御所実の防御はプライドとトレーニングでできている。
PRながら鋭いパスアウトを再三見せる御所実の島田彪雅(撮影:毛受亮介)


 大きく点差をつけて試合終盤を迎える。奈良の御所実は、それまでしてきた通りひたむきに守り続けた。

 2020年1月5日、大阪・東大阪市花園ラグビー場。全国高校ラグビー大会の準決勝でのことだ。対する大阪の常翔学園が、持ち前の勢いで最後の反撃に出ていた。しかし御所実は、タックル後の起き上がりと突破されたエリアへのカバーが素早かった。

「スコアを取られないようにと、ミーティングで話してきた」

 島田彪雅。2016年度に東海大大阪仰星を1年で退学し、1年遅れで御所実入りしていた右PRだ。来季のパナソニック入りを控えた最上級生は、自身を「拾ってもらった」という竹田寛行監督を胴上げしたいと強く思う。試合は結局、26-7で勝利した。30日の2回戦から登場して4試合をおこない、失点はわずか10だ。

 御所実はこの大会で、上位チームにあたる「Aシード」とされていた。二ノ丸友幸コーチはこうだ。

「60分最後までやりきるのがAシードの責任。勝つだけじゃなく、どう勝つか。それはAシードになると決まってからずっと言い続けていることです」

 反応が鋭かった。

 試合序盤、常翔学園がハーフ線付近で得意な連続攻撃を繰り出し、もらったパスを出どころへ折り返す「内返し」で御所実の防御をわずかに突破。直後のフェーズでまた「内返し」を狙えば、すでに御所実の選手がパスコースを読みインターセプトを試みる。

 それ自体は未遂に終わるも、飛び出した選手は真後ろへ駆け戻って接点へ入る。複数名が束になって攻守逆転を決め、素早い連係で右側のスペースを攻略する。敵陣深い位置でフェーズを重ね、FLの長船鉄心による先制トライを導いた。

 以後も御所実は、ボールを持たぬ折の状況判断で際立つ。キックした先へは分厚いチェイスラインを敷き、接点からの球出しへも執拗に圧をかける。常翔学園がグラウンドの端までボールを回し、中央へ折り返そうとしたところへは、御所実のタックラーが牙をむいていた。

 LOの川上善也は171センチと小柄もロータックルでミスを誘い、相手ボールの接点に隙があればCTBの冨岡周、FLの蓑洞功志がカウンターラック(ボールの真上を乗り越えて攻守逆転を決めるプレー)を仕掛けた。

「ひとりひとりの勝ちたい気持ちがあって、前に出るディフェンスができた。どこ(の接点)でファイトをかけるかの状況判断はずっと練習していた」

 島田がこう言えば、二ノ丸コーチは防御中の判断力の背景を語る。

「日常から週に2~3回はああいう(攻守逆転に関する)練習を採り入れています。今年から始めたわけでも、特別なことをしているわけでもない。いままでやったことが、こういう大舞台で表現されている感じです」

 二ノ丸コーチが「一番欠かせない選手に成長してくれました」と見るNO8の西林勇登は、19-0とリードして迎えた前半終了間際に自陣22メートルエリア左中間で好ジャッカル。相手の反則を誘う。西林は後半9分にも、相手のモール(立ったボール保持者を軸にした塊)から球を奪取。終始、接点で渋く光った。

「(御所実に)ミスにつけ込むこと、(ランナーが)1人でいるところへ2人(の防御)にやられること…。これをされた」とは仲間航太。敗れた常翔学園の1年生SOだ。3日の準々決勝ではラストワンプレーで逆転勝ちと勢いづいていたが、それを御所実の堅陣が跳ね返した。5大会ぶり4度目の決勝進出で、初優勝を目指す。

 7日の決勝戦では、過去優勝1回(2010年度に東福岡と両校優勝)という神奈川の桐蔭学園と激突。両者は春、埼玉・熊谷ラグビー場での選抜大会のファイナルでもぶつかっていた。その際は桐蔭学園が29-19で笑っている。

 小柄な選手の多い御所実は、今度の準決勝でかなり消耗したようだ。二ノ丸コーチは「(常翔学園から受けた)ボディーブローは相当効いたのでは」と認める。それでも島田は「竹田先生に恩返しするには日本一しかない」と、頂点だけを見る。

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