コラム 2019.12.26

【コラム】誰も知らない決戦。

[ 田村一博 ]
【コラム】誰も知らない決戦。
勝者はパワーで大きく上回った。(写真/松本かおり)
笑顔の拓大オリバーズ。(写真/松本かおり)
チームの先頭に立った立命館大グラスルーツの桂拓海主将。(写真/松本かおり)



 謝りたいな。
 勝手に持った先入観を。
 12月22日、曇天の熊谷ラグビー場。とはいっても、ワールドカップスタジアムではなく、西多目的グラウンドで東西学生クラブ対抗試合がおこなわれた。
 関東と関西の学生クラブリーグで優勝したチーム同士の一騎打ちは、日本ラグビー協会の主催試合だ。
 ただ、純然たる観客はいなかったように見えた。

 拓大オリバーズは、拓大の体育会ラグビー部の選手たちで構成されている。
 秋の公式戦の準備をすべて終えた夏合宿後、その年のオリバーズ登録の選手たちが発表される。そこに入ることは、秋以降にどれだけ実力を伸ばそうが、関東大学リーグ戦1部やその先のステージでAチームとして戦うことはなくなる。
 そんな背景があるから、立派な体格や地力を持ってはいても、モチベーションはあまり高くないはず。そう思っていた。

 試合開始直前、両チームが並んでピッチに入る。
 立命館大グラスルーツの選手たちの体は、相手チームと比べて随分細かった。
 オレンジの拓大ジャージーが、グラウンドを駆け回るだろう。観戦ポイントを、拓大が目指すインゴール側に決めた。

 オリバーズのPR釜谷慎司がトライラインを越えたのは前半5分だった。同チームは前半だけで7トライを奪い、43-0とリードしてハーフタイムを迎える。
 後半は6トライ。グラスルーツは1トライを返すのがやっとで、ファイナルスコアは78-7。戦前の予想はおおむね当たっていた。

 試合後、拓大の遠藤監督に話を聞く。
 Aチームは12月8日におこなわれた入替戦で敗れ、残念ながら来季は関東大学リーグ戦2部で戦うことが決まっていた。同監督は、その結果を吹き飛ばすことはないけれど、4年生2人を含むものの、若い選手たちが揃ったこの日のメンバーたちを称えた。
「しっかりと戦っていました。(今季中に)Aチームでプレーする可能性はない立場でしたが、学生クラブで実戦経験を積んで、来季以降の成長につなげてほしいとオリバーズに入れたメンバーです」
 監督はHonda HEATに所属する川俣晃人ら、同じ立場から飛躍した先輩の名を挙げた。

 主将を務めた川上卓也も前向きだった。常総学院高校出身の3年生FLは試合中、運動量豊富に、そしてハードにプレーしていた。
「このチームでやることを楽しもう。そう言って練習してきました。昨シーズンは(学生クラブリーグの)2部でしたが、今年は1部。この試合で勝って優勝しようよ、と。与えられたところでやり切ろうとプレーしてきました」
 Aチームが練習するグラウンドの逆側の半面や、時間をずらしての練習という環境の中で心が乱れそうになったこともあるだろうが、最後まで走り切って心地よかった。

 グラスルーツも大敗を喫したけれど、決してみっともなくなかった。
 タックルを弾き飛ばされ、倒されてボールを奪われるシーンが何度もあった。トライを取られるたびに自陣インゴールに集まること13回。言い訳できぬパワーの差に呆然として、ただただ立ち尽くすこともあったけれど、円陣を組んで声を掛け合うときの言葉は最後まで熱かった。
 CTB田淵龍之介の躊躇なきタックル。SO金澤佑弥の足首を離さぬしつこさ。WTB新宅真仁のトライはインターセプトから。相手のプレーを読み切ってかっさらった。

 試合後、キャプテンの桂拓海はキリッとした表情をしていた。尾道高校を出て立命館大学産業社会学部の3年生に在学中だ。高校時代は花園を駆けた。
 2年生時から主将を務めているという細身のリーダーは、「点差は開きましたが、詰められる差のように見えました」と言うと「そう思います」と答えた。少しも笑わなかった。心の底からの悔しさを必死にこらえているようだった。

 大学入学時、「(ラグビーは十分やったから)遊びたいな、と思って」ラグビー部には入らなかった。でも、やっぱり楕円球を追いたくなった。
「それぞれ学部が違ったり、(キャンパスが)ばらばらなので、いまはチームとしては週に1回しか練習をできていません。でも今後、なんとか練習の回数を増やしていきたい。練習の内容ももっと濃いものにしたい」
 こちらの目をずっと見つめたままだった。
 誰も知らない決戦の場で、試合に勝った者も敗れた者も2019年のシーズンを締めくくり、2020年への覚悟を決めていた。

 明日から花園ラグビー場で全国高校大会が始まる。
 すべての試合で、選手たち一人ひとりの気持ちがぶつかり合う。
 戦う前から決着のついている試合なんてない。


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