具智元、伝説のスクラム振り返る。サモア戦へも自信あり?
前半35分、日本代表の具智元が吼えた。
9月28日、静岡・エコパスタジアム。ラグビーワールドカップ日本大会での初先発を果たした右PRの具は、自陣22メートル線付近で相手ボールスクラムを組む。6-12とビハインドを背負っていた折。向こうにとっては、序盤のペースをつかむ絶好機だったろう。
ここで身長183センチ、体重122キロの通称「ぐーくん」は、仲間とつながる。長谷川慎スクラムコーチが教える、「8人の力を漏らさないスクラム」に必要な体勢を作る。
対するは、2018年の欧州王者でスクラムの得意なアイルランド代表。試合開始早々に組み合えば、対面のキアン・ヒーリーにやや外側からぐるりと回され日本代表の反則を取られていた。見方によっては異なる判定が下されそうな場面かもしれず、日本代表のひとりは「今回はきっと、レフリーが見間違えたのだろう」とあえて気にしないよう周りを促していた。
しかし、まじめな性格で知られる具は自分に矛先を向けた。向けようとした。言葉を選びながら、当時の心境をこう振り返る。
「回されながらも自分たちは前に出ている感覚もあって。でも…やはり…(相手の動きは)止めないといけない…」
かくして迎えた勝負の一本。具はFW8人のつながりを確かに感じた。左隣のHOにあたる堀江翔太からは「いるから、いるから」と声がかかる。お互いにぴったり密着しているから、押し込みに行ってもいいという意味だ。
具は、やはり横殴りにぶつかるヒーリーと相手HOのローリー・ベスト主将との間へ低く、堀江らと固まって侵入する。
アンガス・ガードナー レフリーが笛を鳴らす。アイルランド代表のコラプシング(塊を故意に崩す反則)を取る。
4万7000人超のファンが沸く。
具が、吼える。
「…嬉しかったです」
19-12で逆転勝利を挙げた後、殊勲の25歳はハイライトシーンを照れながら振り返った。
初のワールドカップ8強入りを目指す日本代表は10月5日、愛知・豊田スタジアムでサモア代表と激突。歴史的勝利を挙げた具は、今度も3番をつける。
環太平洋諸国の大男たちに「大きいし、力が強いので、今は自分たちの8人で組むスクラムを意識します」と警戒する一方、「押す気持ちの強いアイルランド代表を押し返したのは自信になった」のも確かなようだ。
記者団から「スクラム関連で何か宣言を」という旨で聞かれれば、控えめにこう応じる。
「そうですね。サモア代表のスクラムも力が強いので、(日本代表は)安定したボールをチームに出して、チャンスがあればどんどん攻めに行って、ペナルティを取って、ターンオーバー(攻守逆転)も狙っていきたい。何本(反則を誘ったり攻守逆転を決めたりする)とは言えないですが…。頑張っていきたいです」
アイルランド代表戦では試合終盤、足をひねってその場にうずくまるシーンもあった。後半13分に退くまでスクラムの他にラン、タックルでも光っていて、「身体の疲労が全然、違いました。筋肉痛、きています」と満身創痍だ。しかし、試合翌日に体重を測れば「1キロくらい、増えていました」。さぞ体重は落ちただろうと思わせながら、徹底した自己管理をうかがわせる逸話で報道陣を笑わせる。強くて優しい若者の伝説は、まだまだ続く。