コラム 2019.07.04
【コラム】 誰かのスター。

【コラム】 誰かのスター。

関東大学オールスター:リーグ戦3部選抜 19−12 リーグ戦4部選抜

[ 成見宏樹 ]

 東邦大vs関東医歯薬リーグ選抜のドクター対戦も見どころいっぱいだったが、リーグ戦3部と4部のゲーム(どちらも7人制)は目を引いた。昨年は38−0で3部が順当勝ちしている、この大会唯一の上下リーグ対決。4部が先制トライを決めて、スタンドがどよめいた。

最終スコアは3部の勝ちで19−12。下克上はならなかった。

後半、勝負の時間帯、4部主将の2分間のシンビンが痛かった。カバーディフェンスに戻ったところでステップを踏まれ、腕だけが残ってしまいハイタックルに。群馬の太田高校出身、獨協大4年の津久井亮介は悔やみながらも、仲間と力を出し切った試合後は胸を張って戻ってきた。

 175センチ、75キロのサイズ。芝の上では実際より大きく見える選手がいるが、そのタイプだ。普段はCTB。スピードも、地面を踏みしめるような腰の粘りも、上体の強さもあって、7人制でプレーしていると元ポジション不明。他のメンバーと同じく、オールスターゲームにふさわしい選手だ。

獨協大を選んだのは、受験生時代の事情にもよる。一浪が決まり、自立生活をするために新聞奨学生となった。想像以上に厳しい生活だった。夜中の2時には起きて朝刊の準備、配達。7時まで働き、予備校へ。15時には夕刊準備にかかり、配達、続いて夜まで作業。

「1日に自分でできる勉強時間は2時間か3時間でした」

 ノーサイドの笑顔のままで言う。

「だから、その1年は精神の…あはは。精神の戦いでした。獨協の選択は自分のベストです」

 応募生が減り、津久井はそのコースで最後の奨学生となった。

 所属の獨協大は、昨シーズン4位。天下分け目の上位決定対戦で、入れ替え戦を賭けて東京理科大と戦い敗れた。19−26。1トライ1ゴールの差が2位と4位を分けた。その東京理科大のメンバーとも今回はチームメートだ。1年時にも出場している津久井亮介は、主将に選ばれて、理科大の1年生と2年生を含むオールスターをまとめた。

「3部に絶対に勝とう。昨日がほぼ初対面のメンバーでしたが、意思統一は自分たちの方が試合で出せていたのではないかと思います。3部は個人のフィジカルが強かった。シンビンの場面も、相手のステップに振られてしまって、自分の力不足でした」

 それぞれソックスとパンツのチームに戻って、力を蓄える夏が始まる。秋にはしのぎ削るライバルとして再会する。

 大学生の試合でメンバー表を見るとき、出身校欄を見るのが楽しみだ。

 出身校を知るとそのジャージーの色が思い出され(知らない場合は知らないなりに)、身長やポジションを合わせると、選手の背負っている原風景が見える、気がする。

 それは彼らの背景のほんの一部なのだと時どき確認させられる。想像以上に広がるその風景の持つ幅は、楕円球の世界の財産だ。この日、この催しでなくても、どこのグラウンドでも。チームのジャージーを着て戦う人は誰かのスターだ。

試合後の関東大学3部オールスターと4部オールスター。津久井主将は、前列左から4人目(撮影:山口高明)
試合後の関東大学リーグ戦3部オールスターと4部オールスター。津久井主将は、前列左から4人目(撮影:山口高明)

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