【コラム】ひとりでもいるなら。
セブンズがオリンピック競技となって、女子ラグビーの環境も変わった。
「若い子たちは増え、五輪を目標に、どんどんレベルが高まっています。底辺を支える存在は僅かばかりで、日本の女子ラグビーの構造は完全な逆三角形なんです」
それをなんとかしたい。「若い女の子たちが年齢を重ね、楽しむラグビーをやりたくなったときのために、そういう場所(町のクラブチーム)を用意しておいてあげたい」と、地道な活動を続けてきた。
時代の波に押されて江戸川区レディースも、近年は参加メンバーが少なくなっていた。以前取材にお邪魔したときは、毎回参加するのはひとりだけ…という時期だった。
吉田さんは、それに毎回付き合った。ふたりでのランパス。コンタクト練習。他のクラブに混ぜてもらうときにも付き添う。
たとえひとりになっても。
諫早で触れた愛情が、江戸川にもあった。
今回、東京シャイニングガールズの代表を引き継いだ土屋慎次郎さんも、吉田さんの慰労会に出席していた。
前任者に挨拶を促された土屋さんも、子どもたちへの愛を惜しまない人だ。「代表とかでなく、私は連絡役ということで」と照れながら、皆の前に立った。
「私は昔からタイミングの悪い男で、今回も、吉田さんから(退く)相談を受けたとき、『(子どもたちが)2、3人しかいないんですから、もう活動はやめてもいいかもしれませんね』と言おうと思ったら…その日、10数人もいたんです。その子たちの顔を見ていたら、やるしかないな、と」
照れくさいだけだ。その日参加した子どもがひとりでも、土屋さんは、きっとバトンを受けた。
こういう人たちと会うたびに思う。
日本のラグビー界には陰で支えるひとたちがこんなにいるのに、トップは、大切な気持ちを忘れていないか。
例えば、スーパーラグビーからの除外が決まったサンウルブズ。3年前の参入後に生まれた、新たなラグビーファンは少なからずいる。
しかし、スーパーラグビーの運営側から厳しい条件を突きつけられたら、やり合わない。小さな声に耳を傾ける愛はあったか。
一人ひとりのことを考える。
コーチに限らず先頭に立つ人は、まず、そこから始めなければ。