コラム 2019.02.15
【コラム】やっぱりONE AND ONLY. だった。

【コラム】やっぱりONE AND ONLY. だった。

2018-2019シーズンの取材メモ

[ 成見宏樹 ]

 だからこそ、最後に挙げた白星はうれしかった。法政にとっても、流経大にとっても選手権出場には何ら影響のなかったゲームだが、法政には戦う理由があった。

「東海、大東、流経のトップ3には、僕らの大学生活過去3シーズンで一度も勝てていなかった」(川越主将)。

 選手権には出られなくても、3強との差をなんとか詰めて代を引き継ぎたい。サポートに残った部員のためにも結果を出したい。それを足掛かりに、今後はもっと一体感を作り出せる集団に変わってほしい。対戦校と、自分たちの部の文化に対する挑戦だった。

 法政大 22-21 流経大。後半26分、中井健人の逆転トライで3強相手に挙げた「初めて」の1点差勝利に、法政は沸いた。

「過去3年、たとえば東海には50点差以上でやられたこともあります。少しずつでも差を詰めてきたことが、きょうは形になりました」。川越主将はこの試合でラグビーから離れることが決まっていた。宮崎の実家の稼業である保育園に勤務するという。
 
 対戦した流経大のほうへ話は移る。
 
 流経大には、この法政戦だけメンバー表に名前の無かった選手がいた。WTB中根稜登。起用をめぐりトライアルを続け大学選手権に向かっていた流経大は、次戦の大学選手権、福岡工業大戦で、4戦ぶりにWTB中根を先発で起用した。
 
「久々にスタートからだったので緊張してしまいました」(中根)

 足は速いがフィニッシャータイプではない。タッチライン際を走ることでタテのスペースを作り、味方につないでトライをアシストする。自分がつぶれて相手を寄せ、一気に逆サイドへ振ってのトライを下支えすることも多い。
 
 中根は、神奈川県立 田奈(たな)高校出身。高校時代は合同チームでしか公式試合を経験していない。
 
「部員は全部で5人でした。同期が2人、下級生が3人」
 
 平日、5人での練習はメニューが限られていた。

「シンプルなコンタクトとか、できるメニューをやってきた」。もともと、入部は2年の春と遅かった。「前から先生に誘ってもらっていたんですけど、覚悟が決まらなかった」
 
 大学に来て門を叩いた流通経済大ラグビー部は100人超の規模。衝撃だった。圧倒された。ウォームアップから、すでに楽しかった。「これがラグビーなのか! と思いました」

 大人数でプレーする喜びに浸り、努力を重ねていると、フォーストジャージーにも手が届きそうな位置まで階段を上っていた。今季はFLからWTBへのコンバートも乗り越えた。はじめは、思い切りタックルして、思い切り走るだけ。タッチラインへ押し出されない工夫。FW仕込みの踏ん張りでしっかりとボールを出せる、攻撃の起点になれることも評価を上げた。

「もともと運動神経は悪くないほう」(本人)。WTBへ移ってからはラグビー理解も向上し、右WTB・中根は定着したかに見えた。

 しかし試練はそこから始まる。

 リーグ戦序盤は先発だったが、今年は3人まで留学生が出られるようになった影響もあり、中盤戦からはリザーブに。

「ライバルがライバルなだけに、もう出場は難しいかも、と思った時期もありました。そんな時期に、すかさずヘッドコーチの池英基さんが声を掛けてくれて、30分ほど話をしてくれました。お前は絶対に諦めるなと」

 一縷(いちる)の望みを保ちながら準備を重ねていると、またチャンスをもらえるようになった。リーグ戦最終戦ではいったんリザーブからも外れた中根は、次戦、大学選手権3回戦・福岡工大戦で、晴れて先発に復帰した。

「久しぶりのスタートからのプレーで、本当に緊張しました。けど、絶対に結果を出してやるという気持ちは前より強かった」

 福岡工大を63-26で破って迎えた準々決勝、帝京には0-45で敗れたが、つかみ取った14番のジャージーに恥じないプレーはできた。毎日、毎週、自分にできることを続けた。一戦一戦が、どんな境遇にあっても重要だった。最後の2試合はレギュラーを勝ち取った。
 
「実際にやってみて、帝京相手でもいけると思える部分はたくさんあった。ただ、トライを取り切る力に差を感じた。来年からは、それをふだんから意識して変えていきたい」

 リザーブメンバーを含め、この日ピッチに立った選手のうち11人は、来年以降も、そのチャレンジができる。

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