【コラム】メイジっぽい。
ああ、メイジっぽい。古き時代を知るラグビー好きの多くがそう感じたはずだ。
でも踏みとどまれたのは、新しい時代に踏み出そうとする明大だったからこそでもある。
外から内への方向転換にもろい相手防御を事前に丸裸にして、トライを連ねた。手堅いキッキングゲームは、彼我の差を冷静に受け入れたゆえ。蹴り合いは陣取り合戦とは別に、体力温存という側面も持つ。天理大の留学生3人衆に個の力で劣る明大がリードを奪えば、これほど貴重な時間稼ぎはない。
そして、後半40分の終了を告げるホーン。ラストプレーを迎えた。
相手ボールのスクラム。この試合、金看板のスクラムで明大は劣勢を強いられていた。
なのに、強気だった。
FWリーダー井上の覚悟。「ターンオーバーしてやろうという気持ちだった。僕らの強みだったスクラムが、うまくいってはいなかった。でも、やっぱりスクラムは譲れない明大のプライド。技術とかじゃない、プライドです」
ぐいっと一押し。伝統の、前へ。想定外の受け身に天理大は慌てた。仕方なく展開し、頼みのCTBシオサイア・フィフィタがノックオン。明大に、22季ぶりとなる歓喜のホイッスルが響いた。
あの最終局面で、おそらくは低かった前への可能性にかけた。それもまたメイジっぽかった。
清濁併せのむ懐の深さとでも言おうか。決して完全無欠の優等生ではない。自分の弱さを受け入れ、時に心意気にかける胆力。
明治大学ラグビー部を人に例えるなら、いいヤツだ。
刷新すべきは刷新、受け継ぐべきは受け継いだ。
新しい時代の明大。やっぱりメイジっぽい、メイジらしい。
【筆者プロフィール】
中川文如(なかがわ ふみゆき)
朝日新聞記者。1975年生まれ。スクール☆ウォーズや雪の早明戦に憧れて高校でラグビー部に入ったが、あまりに下手すぎて大学では同好会へ。この7年間でBKすべてのポジションを経験した。朝日新聞入社後は2007年ワールドカップの現地取材などを経て、2018年、ほぼ10年ぶりにラグビー担当に復帰。ツイッター(@nakagawafumi)、ウェブサイト(https://www.asahi.com/sports/rugby/worldcup/)で発信中。好きな選手は元アイルランド代表のCTBブライアン・オドリスコル。間合いで相手を外すプレーがたまらなかった。