国内 2019.01.01

天理大スクラムににじむ、島根一磨主将の情熱。2日、帝京大と4強対決。

[ 向 風見也 ]
天理大スクラムににじむ、島根一磨主将の情熱。2日、帝京大と4強対決。
スクラム練習をする天理大のフロントロー(撮影:向 風見也)

 天理大ラグビー部主将の島根一磨は、自分のしている努力を努力と思わない。とはいえ周りからは、とてつもない努力家だと言われる。

 今季FBとして活躍した3年の立見聡明は、「ホンマにまじめで、グラウンドでも私生活でも本気で取り組む。尊敬してるっす」。群馬の明和県央高を経て関西へ来た学年リーダーは、その人柄に惚れる。

 さらに興味深い証言を残したのは、天理高の監督として島根を指導した松隈孝照だ。

 現在就任7年目で、まじめな選手となら数多く出会ってきた。それでも島根からは、性格診断では説明のつかない魂のようなものを感じたという。

「一回の練習に挑む熱が違う。なぜかはわからないですが、あいつは並々ならぬ情熱をずっと持っているんですよ。例えば大会が迫ってきたら気が引き締まるとか、しんどい練習の時にガッと気合いを入れる子はいます。そんななかあの子(島根)は、『そのうちどこかで力尽きるだろう』というところで力尽きない。『きょうはやる気せえへんなぁ』と思ってるような時がほとんどない」

 父がコーチをするやまのべラグビー教室へ5歳で入り、ずっと地元で楕円球を追ってきた。天理中の部活で練習がきつくなっても、「辞めようとは思わなかったですね。練習がしんどい時も、それが終わった後の仲間たちとの(語らう)場が楽しくてやっていました。そのうち試合で勝てる喜び、楽しみを知った」。天理高では主将を務め、その態度を固めた。

「強くなるためにしんどいことをやる。自らしんどいことをしていく」

インタビューに答える天理大主将の島根一磨(撮影:向 風見也)

 天理大3年時まではおもにFLなどのFW第3列で活躍も、今季からHOに本格転向した。

 卒業後に進むトップリーグでは、FW第3列に身長190センチ前後の大型外国人がひしめく。そのため身長175センチ、体重99キロの島根は、比較的上背が求められないポジションで生きる道を探る。

 もっとも2番をつけるHOは、経験値が求められる。2番はスクラムにおいて、1番、3番をつける最前列左右のPR陣と身体を密着させ、前傾姿勢で相手とぶつかり合う。その際、力を加える向きなどが数センチずれただけでも成否が変わりうる。初心者にとっては難儀だ。

 島根も最初は、ずいぶんと手こずった。あまりにうまく組めず、涙を流すこともあった。前職時代はスクラムの後ろ側に入っていた。その塊の先頭に立って初めて、押されるのは悔しいのだとわかった。

 もっとも、松隈の言う「情熱」は絶やさなかった。一緒に組む1番、3番、対面のグループの2番の意見に耳を傾け、1本でも多く組み込もうとした。全体練習で8対8のスクラムを組んだ後も、最前列のメンバーに残ってもらい肩を組み合った。

 秋からの公式戦シーズンは、「いろんな相手と組むなかで、勝てるようになって、それを自信につなげていきました」。正左PRの加藤滉紫に水先案内人となってもらい、多彩な角度、高さのスクラムへの対処法を学んでいった。加盟する関西大学Aリーグは7戦全勝。3年連続10度目の優勝を決めた。

 成熟までに時間がかかるHOという働き場で、島根は人の何倍も練習して成熟に近づこうとした。進路決定時の覚悟と、主将としての責任感に背中を押されてきた。

「HO転向は自分のわがままではないですが、人生のなかで必要だと思ってやったことです。もしそれが理由でスクラムを押されるようなことがあれば…。そうならないようにしようと思ってやってきました。また、主将という立場から、自分のやっていることへの責任感が生まれている。主将だから(立場上)試合に出られているというのは絶対に、嫌でした。いまでも控えチームのHOに勝っているかはわからないですけど、負けない気持ちは見せてきました」

 小兵ぞろいの天理大は、スクラムに形を持つ。組み手となるFWの8人が、低い姿勢でまとまる。個々の力のみに頼らず、団結力で勝負する。

 12月22日、大阪・キンチョウスタジアム。全国大学選手権の準々決勝に挑んだ。

 大東大の1番、3番は身長180センチ超だったのに対し、天理大は控えを含めたすべての最前列勢が170センチ台だった。それでも島根らは、スクラムで一進一退の攻防を続ける。

 そして、22-17とわずか5点リードで迎えた後半29分。敵陣22メートル線上中央で、相手ボールの1本を一気に押す。向こうの反則を誘った。

 31分、SOの林田拓朗がペナルティゴールを決めて25-17と点差を広げる。最後は30-17で競り勝ち、スクラムを教える岡田明久コーチは手ごたえをつかんだ。

「うちはサイズが小さいのでまとまるスクラムを組んだ。おそらく大東大さんが個々で組んでいたところ、自分らの(考える)通りにならずに焦ってきて、徐々に崩壊していった。それで、うちが終盤の相手ボールを押せたと思うんです」
 
 明大、ワールドでPRとして活躍した岡田は、天理高時代の同級生だった小松節夫監督のもとで「昭和のスクラムをいまの子がわかるように教えているだけ」と謙虚。「(最近の成果は)選手の努力です。練習で数を組んでいっても、もの足らんからと『もう1本お願いします!』と言うようになった。そこから、強うなりました」と、部員たちの献身ぶりを讃える。なかでも島根には、頭が下がるという。

「たった1年でようここまで…。意欲を持っとるから、組むたびに強くなってますわ」

 12月29日、奈良・天理大白川グラウンド。FWのスクラム練習には熱がこもっていた。ヤマハでPRとHOを務めるOBの高部大志が見つめるなか、組み合うまでの姿勢、組み合ってからのまとまりをチェックする。

 控え部員はその様子をタブレットで撮影し、島根らは合間、合間にその画面を確認する。時には「1センチ」と連呼。後ろで組む5人の膝の位置と、地面との距離を「1センチ」に定めるのだ。細部にこだわる。

 全体練習後も、最前列組はグラウンドに残って組み込んでいた。岡田も島根に「『しんどいわ』『初めてやるポジションやのに』という気持ちを、表情にも出さないんですわ」と敬意を表し、最後までその場に立ち会う。「筋肉痛と戦いながら」も、実際に組んでアドバイスをする。

 ぶれないハートの2番は言った。

「ラグビーを楽しむのは大事ですけど、ただ楽しむだけならおもしろくない。規律があるなかで楽しむということを大事にしてやっている。走る時も、まず気持ちを見せる。行動で見せる」

 2019年1月2日、東京・秩父宮ラグビー場で大学選手権の準決勝に挑む。対する9連覇中の帝京大のFW陣を、低い位置からめくり上げたい。

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