控え降格も経験した松尾将太郎、明大で最後の12月に「信じる」もの。
学生生活が終わりに近づいてきた。明大4年の松尾将太郎は、笑顔に緊迫感をにじませる。
「明大には力のある選手がいる。あとはその力を出すか出さないか。皆の力を出せるよう、ゲームメイクしていきます」
身長170センチ、体重83キロのSO。東福岡高3年時は、横幅の広い攻撃ラインを動かす司令塔として全国タイトルを総なめにした。明大でも、下級生の頃から出場機会を得た。
しかし昨季は終盤戦に入ると、それまで守ってきた先発の座を当時4年の堀米航平(現リコー)に奪われた。さらに今季も、長らく控え格のBチーム暮らしを余儀なくされていた。
這い上がってきた。
新チーム発足時にリーダー陣の1人に任命されていたとあって、「Bでこんなことがあったよ、というのを皆に伝えたりしました」。Bチームにいた時は、主力のAチームにいた他のリーダーが気づかぬ点に気を配る。情報共有を怠らず、大所帯に一体感を作り出そうとしてきた。
フィールド上でも、従来以上に他選手とのコミュニケーションを重視。仲間を自在に動かす指揮者として、90名超の部員を引っ張る最上級生として、自分の立ち位置を見つめ直してきた。
結局、昨年度の堀米と同じように、シーズンが深まればAチームのレギュラーSOに定着。加盟する関東大学対抗戦Aは5勝2敗の3位で終えたが、自信を取り戻したようではあった。
「自分の心と話す時間が長かった。ここで自分の気持ちを整理して、自分がどうあるべきかを考え、最後まであきらめずにやってきました」
12月、昨季準優勝した全国大学選手権を見据える。カレンダーをめくってゆく。
14日、東京・八幡山の寮の近くにある中華料理店へ出向く。田中澄憲新監督の提案を受け、4年生だけで決起集会を開いたのだ。献身的だった昨年の上級生の態度を思い返したり、各ポジションの役割を再確認したり。
「思っていることを皆で話して、素になって。吹っ切れたところもある」
決意を新たにした松尾は、翌15日、試合会場近くのホテルでSHの福田健太主将と同部屋になった。負けたら引退というトーナメントの初戦を直前に控え、緊張感が走る。お互いに言い聞かせるよう、こう語り合った。
「これまでやってきたことをやれば大丈夫。俺たちがやれば大丈夫」
決起集会をしたのがよかったのだろう。16日、立命大との3回戦は50-19で勝利。大阪・キンチョウスタジアムのスタンドからは「困ったら、4年生の顔を見ろ」という声を聞けた。さらに同会場で22日におこなわれた東海大との準々決勝も、ノーサイド直前に勝ち越す形で18-15と制した。
翌年の1月2日には、東京・秩父宮ラグビー場で準決勝に挑む。対抗戦で負けた早大と再戦する。足元を見据え、22シーズンぶりの大学日本一を目指す。
「本当に細かなコミュニケーション(を意識し)、劣勢になっても自分たちのやってきたことを信じる」
いまの仲間とラグビーができるのは、決勝を含めてあと2試合だけ。信じた道をただ突き進む。