国内 2018.11.23

早大PR小林、レギュラー獲得の理由は「修正能力」。慶大戦でも成長の跡を。

早大PR小林、レギュラー獲得の理由は「修正能力」。慶大戦でも成長の跡を。
試合前に校歌を歌う早稲田大学1年の小林賢太(撮影:松本かおり)
 小林賢太は、失敗を成功のもとにできるようだ。
 全国的な強豪の東福岡高からスポーツ推薦で早大ラグビー部入り。今季はルーキーながら、身体的負荷のかかる右PRでレギュラーに定着する。
 苦労するのは、最前列で組むスクラム。19歳未満の試合では「1.5メートル以内」と定められるスクラムの押し合いが、大学では無制限となる。身長181センチ、体重113キロで攻撃時の身のこなしに優れる小林は、常に「いまはスクラムが課題」と口にしている。
 ところが相良南海夫監督は、「彼はそもそも身体が強いですし、修正能力が高い。練習中にコーチがアドバイスをすると、のみ込みがいいのかすぐに次のスクラムで対応できるんです」。課題をすぐ改善できる点に、新人PRの良さを見た。小林が実戦経験を積むチャンスを得られているのは、小林が実戦経験をフル活用して大きく成長できると見なされているからだろう。
 事実、当の本人も普段から試合映像のチェックを怠らないと話す。謙遜しつつ、自らの主体的な態度を明かす。
「自分から修正しようとしているというところがある。それを、そう(修正力が高いと)見てもらえているのかなと思います」
 では、この時の苦労も前向きに捉えてよさそうだ。11月4日、東京・秩父宮ラグビー場。大学選手権9連覇中の帝京大と対峙した小林は、スクラムトライを与えるなど押しに押された。試合も28−45で落とし、加盟する関東大学対抗戦Aで初黒星を喫した。
 同じ相手を28−14で制した夏の練習試合の時とは、帝京大FW陣の意気込みが違った。組み合う瞬間の圧力のかかり具合、両軍間の距離も想定していたものと異なった。小林はそう反省する。
「単純に自分の引き出しが少なかった。相手のしたい組み方をされて、自分たちの形が作れず、修正しきれずにゲームが終わってしまいました」
 実は帝京大戦に向け、相手ボールラインアウトからのモールへの対策に注力。「ラインアウトの部分は鍵だと対策をして、(本番でも)帝京大さんのモールをしっかり止められた」。一方でスクラム練習にはあまり時間を割けず、それが苦戦の遠因となった。
「夏に組んだ時を踏まえて『こういうふうに組んでくるからどうしていこうか』という対策はしてきましたが、実際にそこまで(組み込む)機会が少なく…」
 こう小林が後悔する一方、相良監督も詫びるように言った。
「コーチも反省していたのですが、(小林に)相手との距離感などによっての『こうすれば、こう組めばいい』の引き出しがなかったし、こちらもそれを与えていなかった」
 23日、秩父宮で慶大との対抗戦6戦目を迎える。早大陣営は、帝京大戦時の悔しさを踏まえてスクラム練習に注力。すると相良監督いわく、「(小林の)引き出しが1つ、2つ増えたんじゃないかなと」。当の本人は、夕刻から日暮れまでのFW練習へ能動的に挑んだ。いかなる相手を前にしても自分たちの型を貫けるよう、従来以上に入念な準備を施す。
「慶大戦に向けてはスクラムもしっかりやろう、となりました。帝京大戦に向けてはラインアウトモールがキーになると話していたけど、(FWの仕事である)セットプレーはそれだけじゃない。最近はいろんな間合い、シチュエーションでスクラムを組む練習をしていて、慶大さんに向けての対策はしっかりできている。試合中も8人でどこをどう修正するかを話していきたいです」
 
 幼いころから身体が大きかった。知人の母親に勧められて兵庫の芦屋ラグビースクールに加わったのは4歳の頃で、小学生の頃に大阪の花園ラグビー場での全国高校ラグビー大会を観戦。全国制覇を果たした東福岡高に憧れ、中学卒業時に越境入学を決めていた。
 
 エリートコースの延長でキャンパスライフを送るいま、こう言葉を選ぶ。
「高校に比べ、準備することがいっぱいあります。各大学によってスクラムの組み方ややってくる(攻撃の)サインが違うので。大学生のトップレベルの試合では通用する部分も見つけられるんですけど、課題も多い。一試合、一試合、映像を見ながら修正点を克服していかなきゃいけない。強い相手と試合ができることが、自分のレベルアップにもつながっていると思います」
 高校時代よりもハイレベルな舞台で計画、実行、点検、行動のサイクルを回しているゆえ、急速な進化を実感しているようだ。慶大戦では、一本、一本のスクラムに成長の足跡を示したい。
(文:向 風見也)

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