コラム 2018.07.31

盛夏に2冠に挑戦する。大阪大学医学部歯学部ラグビー部

盛夏に2冠に挑戦する。大阪大学医学部歯学部ラグビー部
スクラムでプレッシャーをかける大阪大医学部歯学部ラグビー部(赤と黒のジャージー)。
相手は神戸大医学部

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大阪大医学部歯学部ラグビー部。前列右から3人目が赤松展人主将。中列右から3人目が宮脇大監督、
その左が吉村康秀コーチ、さらに左が唯一の歯学部生、河村崚介前主将
 大阪大学にはラグビー部が3つあります。
 体育会、統合された大阪外国語大の流れをくむ外国語学部、そして医学部歯学部です。
 医師、歯科医師になる23選手だけの部のメインイベントは、この盛夏にあります。
 西日本医科学生総合体育大会(通称:西医体=にしいたい)。8月8日に開幕する大会で7年ぶり3回目の頂点に立てば、今年5月に終わった関西医歯薬系学生大会(通称:関西医歯薬)と合わせて、ビッグタイトル2つを手にします。
 6年修業の中、主将を任されるのは3年生のNO8赤松展人君です。
「もちろん、優勝を狙っています」
 中高ほぼ一貫の兵庫・灘で6年間、楕円球を追った経験者は力を込めます。
 西医体は西日本の医学部学生が集まるスポーツの祭典です。44校がサッカーやテニスなど20競技で覇を競います。ラグビーには、東は浜松医科大から西は琉球大まで36校が参加します。
 赤松君が意気込むのは当然です。
 関西医歯薬決勝の奈良県立医大戦のスコアは40−19。全4試合で平均得点42、失点は7と圧倒的な力を見せつけました。西医体では直近の2大会で連続3位に入っています。
 7月29日には、大会前最後の練習試合を神戸大医学部としました。
 前半8分、ラックサイドを突き先制トライ。ゴールキックも決まり7−0とします。
 しかし、後半18分、自陣ゴール前のマイボールラインアウトでキャッチミス。インゴールを割られます。終了寸前、敵陣ゴール前5メートルまで攻め込むもノックオン。
 引き分けてしまいました。
 OBでもある宮脇大監督は感想を述べます。
「いいんじゃないですかねえ。大会前に足りない部分がわかったのですから」
 医学部付属病院に勤務。専門は循環器系(心臓と血管)の35歳医師は前向きでした。
 神戸大には桑原雅典さんがついていました。神戸製鋼が初代トップリーグ王者(2003年度)に輝いた頃のWTB。実践的な指導を受けた相手に、ミスでの自滅をどう防ぐのか。本番へ課題を渡された形になりました。
 大阪大の練習は火木土の週3回。授業終わりの18時から3時間ほど行います。
「ウチの特徴は筋トレ班ですかね」
 赤松君はじめ3年生全5人がリーダーになり、小グループに分かれて、練習前後に吹田キャンパスのウエイトルームで汗を流します。
「全員でやっていては統率がとれません。やる人は毎日やっています」
 大学から始める人間もいるため、体作りは必須。そして、それは強みに変わります。
 室内では映像も見られます。
「時間があればスーパーラグビーのDVDなんかを見ているようです」
 宮脇監督が話すように、イメージを膨らませて1日おきの練習に取り組みます。
 対外的な経験を積むために、奔走するのは吉村康秀コーチです。医学部の助教としてiPS細胞などを研究するかたわら、25年ほどチームに関わっています
 吉村コーチは奈良クラブに在籍していました。関西社会人Aリーグ(トップリーグの前身)で神戸製鋼などと戦ったチームです。
 その時のツテなどを頼って、7月の3連休中には天理高と試合、8月4日には京都大の体育会に出げいこに出かけます。
 現在の大阪大の所属は関西学生クラブリーグ。15年ほど前までは単独で活動していたのですが、秋の試合数を増やす理由などから、関西学院上ヶ原など学生クラブの名門が集まるリーグに加わりました。
「彼らは運営なんかでもしっかりやってくれます。やらんかったら、まわりみんなが怒る。日々の生活の中で医師としての責任をたたき込まれているのでしょうね」
 リーグの世話人を20年弱つとめる廣島治さんは高く評価していました。
 今回戦う西医体は関西医歯薬と違い、医学部生以外の参加は認められていません。
 FL河村崚介君は唯一の歯学部生です。3歳から和歌山・岩出ラグビースクールで競技を始め、智辯和歌山高を経て入学しました。
「出られないというのは分かっていたことです。今は1年生2人が初心者なので、タッチジャッジを教えたり、声出しなどチームのためになることをしようと思っています」
 前主将の4年生は割り切っていました。
 就任3年目の宮脇監督は言います。
「僕が監督になる前から、会議の席などで提案はしています。僕らはずっとひとつのチームとしてやってきました。医学部にこだわる必要はあるのですか、ってね」
 赤松君も意見を持っています。
「歯学部も入れてほしいです。今の時代、多様化は大切だと思います。伝統という言葉も理解できますが、そこにこだわらなくともよいような気はしています。ただ僕自身が運営にかかわっていないので、なんとも言えない部分はありますが…」
 西医体は70回目を迎えます。関西医歯薬は今春、60回でした。大会を作った人の多くが鬼籍に入っているので、詳しいことはわかりません。おそらく、歯科や薬科、それに現在では看護や理学療法などの医療系全学生を包み込むため、関西医歯薬が生まれたのでしょう。西医体ができて10年後のことでした。
 河村君を大切な仲間のひとりとして、大阪大は大会に臨みます。
 1回戦の山口大との一戦は8月11日。ラグビー競技は例年、兵庫県北部の豊岡市にある「但馬ドーム」などで開催されます。
 2冠達成には、関西医歯薬より1つ多い5試合に勝ち切らなければなりません。
 大阪大にとって、最高に暑い夏がこれから始まります。
(文:鎮 勝也)

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