コラム 2018.05.11

種はまかれた。四国大学7人制女子ラグビー部

種はまかれた。四国大学7人制女子ラグビー部
四国大学セブンイーグレッツのメンバー。前列中央が井上藍キャプテン
 四国大学7人制女子ラグビー部「セブン・イーグレッツ」が本格的に始動した。
 チーム名は学校のある徳島の県鳥「シラサギ」の英名(Egret)からとられた。
「目標は日本一です。まずは太陽生命のコアチームになりたいですね」
 50歳の監督・山中一剛(やまなか・くによし)は、メジャーな「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ」を具体的に挙げる。かなたに見据えるのは、年4回開催の大会すべてに参戦できる上位11チーム入りだ。
 徳島市内にある私学の四国大学が、女子ラグビーのスタートを宣言したのは昨年4月だった。山中は勧誘で全国を回る。
「東は栃木から南は沖縄まで行きました。出張は何十日にもなりました」
 精力的な動きは、この4月、1期生として対外試合可能な8人を迎える形になる。
 太陽生命シリーズのコアチームでもある石見智翠館からは主将の井上藍が入学した。
「私は管理栄養士になりたかったんです。ここには、ラグビーをしながらそれを勉強できるコースがある。それに一からラグビー部を作る、というのに魅力も感じました」
 この島根の強豪校からは計4人が加わる。
 通常練習は講義の終わる午後5時から2時間弱、大学の「しらさぎ球技場」で行われる。キャンパスから吉野川沿いに自転車で20分ほど下ったところにある。
 照明完備。フルサイズの人工芝の上では、山中が理想とするラグビー「立ってボールを動かす」の具現化を図る。
 山中は部員たちに解説する。
「ラックありきにすると、格上にはブレイクダウンで圧倒され、ラックはめくられてしまう。まずは倒れない意識を持ってほしい」
 練習では1対1に時間の大半を割く。そこに1人ずつが加わり、2対2になる。
 勉強のため、4月21、22日の女子セブンズシリーズ北九州大会を現地観戦した。
 コンタクト中心のトレーニングを嫌がらせない工夫はしている。
 オフは週2日。試合がない日曜と水曜が充てられる。山中は曜日の理由を話す。
「女の子だしおしゃれに気を使いたい時もあるでしょう。ところが月曜は美容院が休み。だから水曜にしました。それに木曜は午後休診の病院や歯医者が多い。元々ヒザがよくない選手も『調子がいい』って言ってくれます」
 体のメンテナンスにも効果がある。
 空き時間のアルバイトも認めている。
「せっかく徳島に来たのだから、文化を知ってほしいし、人との接し方も学んでほしい」
 山中は年ごろの女子の扱いに慣れている。2013年に女子7人制チームの「徳島セブンフェアリーズ」を立ち上げた。徳島大3年生になる一人娘・みゆはコーチをつとめている。
 山中は浪速っ子だ。
 小2から大阪ラグビースクールで競技を始める。啓光学園(現常翔啓光)から大阪体育大に進学。強くて速いWTBだった。褐色の肌、黒い瞳でついたあだ名は「タイガー」。卒業後は百貨店の大丸に就職した。
 27歳の時、妻・育子の実家がある徳島に移る。民間企業に勤めながら、阿南高専や国体の徳島高校選抜の監督などを経験。その間、鳴門教育大で教育学の修士号を取得した。
 四国東部での生活はほぼ四半世紀に渡る。
 四国大が少子化時代における地方大学の生き残り策のひとつとして、女子ラグビー部の創部を決めた時、監督候補にあがる。
 四国大の企画監・佐野義行は言う。
「この徳島を愛していて、地に足がついている人を探していました」
 県の元教育長で、現在は県ラグビー協会の会長も兼任する佐野は、学長の松重和美と相談の上、山中を呼び寄せる体制を整えた。
 山中は監督就任と同時に、教員としてスポーツ実技や体育学の講義なども受け持つ。研究室ももらい、65歳定年までの雇用が約束された。今から15年間は日々の生活に心を惑わせることなく、ラグビーに没頭できる。
「ありがたことですね」
 山中は笑顔を見せる。
 四国大の創立は1966年。当時は女子大だったが、1992年に共学化された。現在は井上など5人が籍を置く生活科学など4学部と短大、大学院などを併せ持つ。
 女子ラグビー部の誕生は、中四国地区では初めて。学内にタッチラグビーはあるが、男子ラグビー部はない。
 大学側は部活動に手厚い。
 女子のラグビーやサッカー、陸上などの6クラブを強化指定にして、「スポーツ分野特別奨学金」を導入。年間最高で80万円を支給する。他の奨学金と合わせることも可能だ。
 来年には学内にある25メートルプールをつぶし、そこに専門的なトレーニングルームを作る計画が進んでいる。
 山中は青写真を描く。
「ゆくゆくはラグビー部の専用寮も作りたい。強くなるためには必要だと思います」
 部員8人はワンルームマンションや一般寮で生活している。井上は自炊している。
「野菜いため、ハンバーグ、グラタンなんかをクックパッドを見たり、おかあさんに聞いたりしながら作っています」
 部員たちの負担軽減、栄養価の高い食事の提供、クラブとしての結束、リクルートなどを考えれば、専用寮の設置は効果が大きい。
 5月12日には、山中の高校時代の恩師・記虎敏和が率いる社会人チームのPEARLSとホームグラウンドで対戦する。
 今年度から太陽生命シリーズのコアチームになったPEARLSは、力や技の現在地を知るには格好の相手になる。
 学校、グラウンドを潤す青い深みを帯びた吉野川は、「日本三大暴れ川」のひとつとして知られる。「坂東太郎」の利根、「筑紫次郎」の筑後、そして「四国三郎」だ。
 その悠久の流れは、チームスローガンである「Strong&Beauty」と同じ。強く、美しい母なる大河のように、女子ラグビー界において存在感を高めていきたい。
(文:鎮 勝也)

yama

チームトークをするメンバー。中央で白いキャップをかぶっているのが山中一剛監督

PICK UP