国内 2018.04.02

選抜大会屈指の好カード。指揮官が見る東福岡高×東海大仰星高。

選抜大会屈指の好カード。指揮官が見る東福岡高×東海大仰星高。
全国高校選抜大会の予選リーグで激突した東福岡(緑)と東海大仰星(撮影:大泉謙也)
 第19回全国高校選抜ラグビー大会の予選リーグにあって、屈指の好カードだったろう。
 4月1日に埼玉・熊谷ラグビー場Bグラウンドであった予選Fグループ第2節、東福岡高×東海大仰星高の60分である。
 両者は前年度の全国高校ラグビー大会(大阪・東大阪市花園ラグビー場)で、準決勝を戦っていた。
 その時の東福岡高は、20歳以下日本代表の福井翔大(現パナソニック)らを擁しながら前半を0−14とされ14−21と惜敗。大会2連覇を逃した末、対する東海大仰星高の2年ぶりの優勝を許した。藤田雄一郎監督は、選抜大会でのリベンジに燃えていた。
「今日は、どんな不細工なゲームでもいい。1点差でもいい。とにかく仰星に勝たないと今年のチームはスタートできない。同じ相手に2回も負けられない。試合直前には、それまで見ていなかった準決勝のビデオも観て…。自分の思いもあるから」
 もっとも選抜大会への出場は、東福岡高が九州大会1位で決めていたのに対し東海大仰星高は近畿大会5位。前年度まで活躍した長田智希主将(早大)が抜けたことなどを受け、東海大仰星高は挑戦者の構えだった。湯浅大智監督はこうだ。
「選手には言っていました。喧嘩だ、絶対に負けるな、と」
 キックオフ。先手を取ったのは東福岡高だった。前半1分にFBの竹下拓己によるペナルティゴールで3−0とする。続く3分には、インサイドCTBの宝田悠介が自陣深い位置から防御の切れ目へ鋭角に切れ込む。SHの友池瞭汰のトライをおぜん立てする。
 ここでスコアは10−0。前回対戦時を鑑み、スコアマネジメントに気を配っていたと藤田監督は話す。
「30分ハーフの試合で後追いは難しい。先、先に(点を取る)。トライだけにこだわらず、ペナルティゴール、ドロップゴールでも…。そういうラグビーをしていかないと」
 東福岡高は、24−0と大きくリードしてハーフタイムを迎える。しかし、東海大仰星高の粘りも際立った。
 まず湯浅監督は、連係エラーが目立ったBK陣へ前半10分、22分とメンバーチェンジを施す。
「思い切って、リザーブに多く入れていた新2年生に(相手の強さを)体感させる。(先発15名中11名の)新3年生はある程度、体感していたので」
 芝に立つ面々は、タックル後の素早い起き上がりと危機察知能力を披露。防御の決壊を幾度となく防いだ。駆け抜けんとする東福岡高のランナーに、何度も食らいつく。
「だいぶ、カバーはよくなった。この時期にしては(駆け戻る)スピード感がありました」
 湯浅監督がこう頷くなか、後半1分には待望のチーム初トライを挙げる。
 ハーフ線付近から、かねてターゲットとしていた右サイドのスペースをオフロードパス(タックルされながらつなぐプレー)を交えて攻略。左中間でとどめを刺したのはLOの馬渡仁之祐だった。24−5と迫る。
 ここから両軍が1トライずつ取って迎えた12分。得点上での主導権を強く意識する東福岡高は、敵陣22メートル線付近中央で向こうが反則したと見るやペナルティゴールを選択。無理にトライを狙わず、FB竹下の足で34−10と着実に差を広げたのだ。
 試合終盤に24点リード。藤田監督いわく、東福岡高は「(相手の)心を折る」ための一手を打ったのだ。
 ところが東海大仰星高は、心を折らなかった。
 14分、敵陣中盤右で相手のミスボールを拾うや左へ展開して途中出場の前薗斗真がフィニッシュ。34−15。17分、東福岡高がシンビンで1人欠くなか敵陣深い位置で球を継続。左から右への大きな展開を経て、先発WTBの谷口宣顕がインゴールを割る。34−20。
 その間、湯浅監督は「次のスクラム、向こうはプレッシャーをかけるか時間差で押してくる!」「ゼロ(接点周辺の防御)だけは崩すな!」など、試合の流れに即したアドバイスを選手に送り続ける。
 14分の得点時にも、攻守逆転のきっかけとなるセービングを決めた選手へこう問いかけていた。
「セービングで飛び込む前、相手はノックオン(落球)していたやろ。そういう時はボールへ飛び込んでスロー(な展開)にするより(球を両手で拾い上げるという)チャレンジ。それでこっちがボールを落っことしても(先に相手が落球しているため)マイボールや。状況を見て動かなあかんで」
 勝負にこだわる過程で、接戦時のプレー選択について反省を促しているようだった。その意図を、湯浅監督はこう語るのだった。
「(今後は試合中、選手同士で)会話をできるように…と。(高校ラグビーは)3年間しかない。そんななか、実戦で感じられることはいっぱいあります」
 果たして試合は、東福岡高が34−20で制す。
 もっとも敗者の後半の追い上げには、東海大仰星高前監督の土井崇司氏が「すごいな、お前ら」と感嘆する。
 この大会へは東海大相模高の顧問として参加する土井氏は、後継者となった湯浅監督の現役時代も指導している。愛弟子のコーチングスキルを高く評価しつつ、いまの東海大仰星高の面々をこう称えた。
「この時期にこんだけ身体を当てたのに、(試合後に)痛がって歩いている奴がいない」
 もちろん湯浅監督は「いいゲームをしに来ているわけではない。公式戦なので、勝たないと。前半は課題ですよね」と満足しない。白星を収めた藤田監督も、ただただ安どの顔つきだった。
「ひとまず、きょうは…。ディフェンスの規律を守れていないなどの課題もいっぱいあって、コーチ陣は後でやかましく言うかもしれませんが、僕はよくやったと言うだけです」
 東福岡高は追い込まれながら勝つという成功体験を積み、東海大仰星高は強者に迫れるという手応えと負けた悔しさを感じられた。
 決勝トーナメントへ行けるのは各グループの1位チームのみ。ここまで2連勝の東福岡高は、3日にある予選リーグ最終戦で1勝1敗の秋田工業高に勝てばその切符を得る。1勝1敗の東海大仰星高は東福岡高×秋田工業高の結果を待ち、その後、白星なしの昌平高と対戦する。
(文:向 風見也)

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