国内 2017.12.13

郡山北工、花園へ。「ラグビー部6年生」金井多聞の集大成

郡山北工、花園へ。「ラグビー部6年生」金井多聞の集大成
郡山北工のSOとして、全国高校大会を控える金井多聞(撮影:櫻井ひとし)
「気にしねえで。自分の行きてえ学校、行っていいんだぞうって、言ったんだけれど」
 選手たちの練習を、あえて距離を取って見ている小野泰宏監督がつぶやくように言う。
 視線の先では小柄な、しかしがっしりとしたSOが、仲間に指示を飛ばす。12月27日に開幕する全国高校大会、『花園』を控えて練習に励む郡山北工業(福島県代表)。このチームで1年から司令塔のポジションに立つ金井多聞(3年)は、ラグビーへの気持ちの熱さでは一番。ちょうど多聞が1年のときにチームが史上初めて花園出場を果たして以来、昨年、今年と3年連続で県予選を突破している。多聞は、チームとシンクロするように成長を遂げてきた。
「去年の花園以降は、個人的にもいろいろ考えさせられました。SOに求められるものって何だろう――そう考えながら、いろんな試合を見るようになった。小さいころから試合は観てたつもりですが、流してただ見るのと、今とでは、ラグビーの見え方も変わってきた気がします」
 多聞が北工ラグビー部の門をたたいたのは、なんと中学1年生の時。郡山少年ラグビースクールで始めたラグビーを続けたい。が、中学スクールの練習サイクルでは多くて週に1回しかボールに触れない。毎日プレーするための選択肢を家族と話し、自分で決めて高校生とのプレーを選んだ。
 参加を申し込まれた側の北工監督、小野先生はびっくりもしたが感心した。
「何も問題ない。やりたいんだったら一緒にやろう、と。安全面だけは気をつけて、コンタクトプレーのないようにうまく混ぜたり」(小野監督)
 しばらくすると小野先生はまた舌を巻くことになる
「多聞はまあ、1年間はコンタクトなしかな。そんなふうに考えていたら、その年、体重を16キロ増やしてきました。当時の高3とも、にわかには見分けがつかないくらいしっかりしてきたので、(年度の)途中からコンタクトにも入れました」
 こうして、「高校で練習する中学生」は北高のグラウンドに定着した。この校庭に通い始めて6年目。だから多聞は、高校3年生だが、ラグビー部歴では6年生だ。彼にならって「中学スクール+高校で練習」のサイクルを選んだ部員が、現在2人いる。
 小野監督は、練習に来る中学生には「ここで練習していても、高校は自分の好きなところへ行きなさい」と、当初から話してきたという。
「勉強とか、将来の進路への考えとか。子どもはそれぞれだからね」
 多聞の場合は他の進学校の選択肢もあったが、自ら北工でラグビーをと、入学してきた。
「小学校から初めてここに来たときは、みんな(部員は)デカいし、少し不安もあった。けど、先輩もやさしかったし、受け入れて下さってすぐに慣れました。僕はここだから成長させてもらったと思っているので」
 突出した意志力を持つ存在は、入学前からチームに影響を与えていた。上級生たちの前にでも言うべきことはその場で伝える。才覚もあるが努力を惜しまない。居残りで練習をする姿は、多聞が晴れて高校1年になったときの3年生たちにも影響を与えた。2年前、久々に勝ち上がった決勝でそのまま優勝し、初めての花園出場を勝ち取った年だ。
 全国は広かった。花園はその地に立ってなお遠い場所だった。
 過去2年はいずれも大差の初戦敗退。
 1年目、伏見工(京都。この大会でベスト16に)と初戦で当たり0−78。
「1年の時は圧倒的な体の違いを感じた」(多聞)
 2年目、報徳学園(兵庫。同じくベスト16)に、今度は0−88。
「体を当てることはできたけれど、そこからの強さに差があった」
 部全体でウエイトトレーニングに力を入れるなど、今年はチームの取り組みも変わってきた。昨年から出場するメンバーが9名いる郡山北工、1回戦の対戦相手は和歌山工に決まった。
「2年前は、1年だったし、やっぱり緊張しました。去年も花園を経験できて、今回は、楽しみな気持ちの方が大きい」(多聞)
 3度目の花園、開会式は今年も12月27日だ。
(文:成見宏樹)

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北工は磐城を予選決勝で破り、3年連続3回目の花園に向かう(撮影:櫻井ひとし)

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