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2017.07.28
<不定期連載 壁を打ち破れ!〜サンウルブズの挑戦> 上野裕一ジャパンエスアール会長が考える日本ラグビー未来像? 「2019はゴールではなくスタート。2020年以降のシーズンストラクチャーは世界に挑戦するトップリーグを基本理念に大胆な改革を」
今季60人近くのスコッドを抱えたサンウルブズ。
優勝を狙えるチームになるため、今後はメンバー選考基準も変わっていく(撮影:出村謙知)
英語で相手に目標を尋ねる言い回しとして、「What is your goal ?」というフレーズがあります。
いま、この質問を日本のラグビー関係者に投げかけた場合、なんらかのかたちで「2019」という数字に触れる人が多いのではないでしょうか。
日本語の感覚では、「ゴール」というと、なんとなく「終わり」をイメージしてしまいますが、2年後に自国開催のラグビーワールドカップ(RWC)を控える我々が考えないといけないのは、「2019年をスタートにしなければいけない」ということ。
確かに、スーパーラグビーでの2シーズン目を終えたばかりのヒト・コミュニケーションズ サンウルブズも、RWC2019に向けた日本代表強化を大きな目的としてスタートしたチームであることは紛れもない事実です。
その一方で、我々ビジネスサイドとしては当然ながらポスト2019におけるチームの繁栄を見据えながら施策を講じていく必要がある。
加えて、スーパーラグビーの運営母体であるSANZAAR自体も、2020年以降、サンウルブズをはじめとする日本ラグビーがどう発展していくのか、彼らにとってどのようなかたちのビジネスパートナーとなっていく可能性があるのか、そのことを注視しているのです。
この連載でも何度か触れてきたとおり、サンウルブズが独自に作り上げてきたラグビーカルチャーに関するSANZAARサイドの評価は非常に高いものがある。そして、チームの実力に関しても、ライオンズに対して敵地で7−94で大敗するようなゲームもあったものの、ブルズ、ブルーズというスーパーラグビーの歴史を紐解いても紛れもない強豪と言えるチームを破ったことで、今季サンウルブズに求めるようになった「エリジブル(適格)な実力」という設定はクリアーできる方向性にあると評価されています。
ただし、もちろん、ここで立ち止まってはいけないし、そのつもりも毛頭ありません。
来シーズンのスーパーラグビーは現行の18から15にチーム数が減ります。ご承知のとおり、南アフリカから2チーム、オーストラリアから1チームが削減されることになる。
当然ながら、来シーズン以降、我々に突きつけられるさまざまなリクエストは今までとは比較にならないほど、シビアなものになる。
2020年には優勝を争える実力のチームになること。
SANZAARサイドからは、そのような要求も伝えられてきています。
オーストラリアや南アフリカのフランチャイズの中で、一体、どれだけのチームがスーパーラグビーを制してきたのか? と反論したいところですが、SANZAARが運営母体であるスーパーラグビーの舞台で戦っていく以上、我々は彼らを満足させる存在であり続ける必要があるのは当たり前ですし、世界最高峰のスーパーラグビーとはいえ、参加する以上、トップを目指すのはプロフェッショナルなスポーツチームとしては当然でもある。
その意味では、今後は今まで以上に純粋に優勝を狙えるチームづくりを目指していくことになるし、すでにこの連載でも示唆してきたように、チームが削減されるオーストラリアなどから、マーキープレーヤーを積極的に採用していくことも必要になるでしょう。
その一方で、我々ビジネスサイドとしても解決、というか方向性をはっきりさせないといけない課題もあります。
現在、我々はスーパーラグビーの試合に関するテレビ放映権の分配を得ていません。
その根本的な理由は、我々がスーパーラグビーを運営するSANZAARのステークホルダーではないからです。
SANZAARとは、その名のとおり、南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリア、そしてアルゼンチンという南半球の4ラグビー協会のジョイントベンチャーです。
かつてはベルナール・ラパセ前会長、最近でもアグスティン・ピチョット副会長など、ワールドラグビーの重鎮たちが「日本はラグビーチャンピオンシップに参加すべし」という主旨の発言をしたりしてくれていますが、現実問題として日本がラグビーチャンピオンシップに参戦するためには、SANZAARに出資してジョイントベンチャーの一員となる必要があるのです。
もちろん、当然ながら迎え入れる側のSANZAARにとって、日本の参加がメリットがあるかどうかもポイントになってくるわけですが、私自身が接している範囲で言うなら、SANZAARサイドも将来的には健全なかたちで日本がジョイントベンチャー入りすることを望んでいると断言してもいいでしょう。
その前提として、まずは2020年を目処にサンウルブズがスーパーラグビーで優勝争いのできるチームになることを求めているわけであり、それが現実のものとなれば日本をビジネスパートナーとして迎え入れ、第2、第3のスーパーラグビーフランチャイズの話やラグビーチャンピオンシップへの参加の可能性も広がっていくことになる。
■スーパーラグビーがおこなわれている春シーズン中も社会人、大学チームが世界を目指して戦える場を
もちろん、ここまで述べてきたSANZAARとの関係も、日本ラグビーに携わる人たちが、自分たちが関わる競技の未来をどう考えるか次第であることは間違いありません。
あるいは、サンウルブズの誕生以前のように、国際試合と呼べるのは年間数試合の代表戦のみ、トップリーグや大学など、国内の有力チームであっても、基本的には国内のコンペティションだけがプレーの場となるという内向きなスタイルを貫いた方がいいと考える人たちもいるかもしれません。
ただし、私自身、サンウルブズを立ち上げることになり、実際に2シーズン、同チーム周辺に起こったことを振り返ってみても、多くのラグビーファンが望んでいるのは「世界にチャレンジする、おらがチームを見たい。応援したい」ということだという絶対的な信念を持っています。
ですので、内向きな意見は無視して、日本ラグビーが国際的な舞台を経験しながら発展していく、あらゆるレベルで世界へのチャレンジが進められるようなシーズンストラクチャーの方向性を以下述べていきたいと思います。
ご承知のとおり、すでにワールドラグビーは2020年以降のシーズンストラクチャーの変更を公にしています。
大まかに紹介すれば、現行の6月、11月のウィンドウマンス(代表チーム同士のテストマッチが優先される期間)のうち6月が7月にずれ、それに伴いスーパーラグビーのシーズンも2月スタートこそ変わらないものの、6月まで中断期間なく続けられることになる。
その後、7月(第1〜3週)のウィンドウマンスから現在も8月スタートのラグビーチャンピオンシップへと南半球のテストマッチシーズンは続いていくことになります。
もちろん、日本も含めた北半球では7月のウィンドウマンスの後は国内シーズン開幕となるわけですが、ウィンドウマンスが後ろ倒しになることで、当然、国内シーズンのスタートもその分、遅らさざるを得なくなるはずです。
フランスのトップ14を例に取るなら、日本のトップリーグ同様、8月開幕(2017-18シーズンは8月26日開幕)となっています。
選手のウェルフェアや各チームの準備を考えるなら、2020年以降はこれが9月以降の開幕にずれ込むことは間違いないでしょう。
その名の通り、14チームの総当たりによるホーム&アウェーのレギュラーシーズン(計26節)+プレーオフ(計3節)でおこなわれているトップ14ですが、「ヨーロピアン・チャンピオンズカップ」、「ヨーロピアン・チャンレンジカップ」と呼ばれる欧州リーグもあり、それぞれ6節のレギュラーシーズンと3節のプレーオフが国内リーグの合間に組み込まれています。
この基本的なストラクチャーが2020年以降も変わらないと考えるなら、現在6月第1週におこなわれているトップ14の決勝戦も6月中〜下旬に繰り下げられることになり、シーズン全体が後ろ倒しになる。
北半球ながらスーパーラグビーにも参加している日本の場合、状況はさらに複雑になります。
2017-18シーズンのトップリーグは8月18日に開幕し、レギュラーシーズンは年内まで(最終節は12月24日)。日本選手権も兼ねる順位決定トーナメント(プレーオフ)を含めても1月中旬までにトップリーグチームのシーズンは終了する予定です。
もちろん、これは2月に開幕するスーパーラグビーの日程に合わせたもので、RWC2019に向けて、サンウルブズの活動も通して日本代表の強化を進めていくことを最優先しているからこそのスケジュールでもあるわけです。
では、2020年以降はどういう方向性でいくべきなのか。
個人的には、2020年以降も日本代表とスーパーラグビーの活動は優先すべきだと思っています。
開幕を8月から9月に後ろ倒しにすること自体は、日本の気候上の特性とラグビーという競技の特質を考慮するなら、望ましいものであることも間違いない。
ただし、単純に言えば、トップリーグをいまのままのスタイルでスーパーラグビーの開幕に合わせて終了させるのは難しくなります。
個人的には、世界に類を見ない企業スポーツとして発展してきた日本の社会人ラグビーの伝統は守っていくべきだと考えています。
その日本が世界に誇れる企業ベースのチームのシーズンがわずか3、4か月で終わってしまうのはあまりにももったいないし、将来的に企業がラグビーチームを維持していく価値を考えた場合にも、ポジティブな方向性とは言えないでしょう。
という条件を考えた時、トップリーグチームの活動期間をスーパーラグビー開幕前までに限定するのではなく、春シーズン以降も社会人チームがプレーできる場を設けていくのが正しい方向性なのではないでしょうか。
そして、その場合に重要になっていくのが、最終的にはクラブワールドカップへの発展を見据えた、単独チーム参加型の国際コンペティションの創設です。
すでにこの連載でも紹介させていただいたとおり、トップ14の関係者は日本との交流に大きな関心を持っています。
また、ウェールズ、アイルランド、スコットランド、イタリアのトップクラブによる国際リーグであるプロ12には、スーパーラグビーからの離脱を余儀なくされた南アフリカの2チーム(チーターズ、キングズ)の参加も決定しています。
もちろん、トップ14やプロ12と欧州リーグを戦っているプレミアシップだって、将来的にはクラブワールドカップにつながる国際大会への参加は関心事であることは間違いないでしょう。
2020年以降に北半球のクラブチームとの対戦を念頭に新たな国際的なコンペティションを創設することを考えた場合、開催時期として最適と考えられるのは、欧州各リーグが終了する7月。
7月はウィンドウマンスに当たるため、この時期に単独チームによる国際大会を設けた場合、各代表選手は参加しないかたちでのスタートが想定されます。
であるならば、例えばトップリーグ自体も9〜1月は代表組を含めた選手構成で戦い、3〜6月は代表組抜きで戦うようなスタイルで、シーズンを伸ばしていく方策も考えられるかもしれません。
単純に、前期、後期と分けてもいいだろうし、あるいは9〜1月をトップリーグとして優勝チームを決め、3〜6月は全く別のコンペティション、例えばTLワールドチャレンジなどとして7月の世界的なクラブコンペティションへの出場権を賭けた別のトーナメントとするのも一案かもしれません。
フランスのトップ14は2〜3月におこなわれる6か国対抗時も基本的にはリーグ戦は中断しません(2018年は6か国対抗5節中3節では同じ週末にトップ14の試合がおこなわれる)。
つまり、代表組がいなくてもチームをしっかり機能させられるだけの戦力を保持するのが、世界のトップクラブでは当たり前なのです。
現在のトップリーグの各チームがどれくらい世界との対戦を望んでいるかはわからない面が多いのも正直なところではありますが、仮に世界のトップクラブと競い合って世界一を目指すならば、トップリーグの各チームも代表選手抜きでもフランスのトップクラブと対等以上に戦える陣容を備えていかなければ、まともに勝負ができないのは自明の理でもあります。
もちろん、日本人プレーヤーの選手層の問題もあるでしょう。
ただし、今シーズンはサンウルブズ単体で60人近くのスコッドを抱えることになりましたが、サンウルブズ自体がスーパーラグビーで優勝を狙えるチームになることを義務付けられている以上、今後はスーパーラグビー予備軍的な選手は最低限しか抱えられなくなる。
そういう選手は当然、3〜6月もトップリーグチームでプレーするのが自然なかたちであり、新卒組も含めた大学生が後期だけトップリーグでプレーするようなことも考えられるでしょう。
あるいは、発想を変えるというか、社会として春がスタートの季節である日本のしきたりに合わせるなら、春シーズンをプレシーズン的な前期として、9月以降を今まで通りのメインシーズンとする考え方もあるかもしれません。
今季のサンウルブズの国内ホームゲームはわずか4試合でした。
シンガポールフランチャイズが将来的にどうなるのか次第という面もあるとはいえ、2月以降7月のウィンドウマンスまで、国内でレベルの高いラグビーの試合がほんの数試合しか見られないのは、ラグビーファンにとってもいいことではないでしょう。
スーパーラグビーと連動した代表強化はSANZAARと。一方、トップリーグチームの国際交流は欧州と。
そんなふうに、構造的にバッティングしないかたちで、異なる強豪地域と交流していける可能性を持つのは、地理的にも、あるいは独特のラグビー文化を育んできたという意味でも、世界の中で日本だけでしょう。
楕円球をめぐる国際舞台の中で主体的なかたちで存在感を示していくためにも、スーパーラグビーに続いて、欧州との連動を意識したトップリーグ改革の議論を進めていく時期になっていると、個人的には考えています。
あらゆるレベルで、日本ラグビーが世界とのチャレンジを本格化させる。
ラグビーを愛するみんなで、2019年をそんなスタート地点にしていこうではないですか。
フランスラグビー界が誇る頭脳、ピエール・ヴィルプルー元フランス代表共同監督と
<プロフィール>
上野裕一(うえの ゆういち)
ビジョンは I contribute to the world peace through the development of rugby.
1961年、山梨県出身。県立日川高校、日本体育大学出身。現役時代のポジションはSO。
同大大学院終了。オタゴ大客員研究員。流通経済大教授、同大ラグビー部監督、同CEOなどを歴任後、現在は同大学長補佐。在任中に弘前大学大学院医学研究科にて医学博士取得。
一般社団法人 ジャパンエスアール会長。アジア地域出身者では2人しかいないワールドラグビー「マスタートレーナー」(指導者養成者としての最高資格)も有する。
『ラグビー観戦メソッド 3つの遊びでスッキリわかる』(叢文社)など著書、共著、監修本など多数。